コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- うんこを煮るにいたったアホ4人を取り巻く人々の場合2 ( No.9 )
- 日時: 2011/04/24 14:26
- 名前: 天神千尋 (ID: VmcrDO2v)
岩田さんの話
我々の地元は小金井市という都内にありながら、取り残された感がある街で、特別快速はスルー、駅前にはゲーセンと喫茶店が合わさった建物と、ゴルフの打ちっぱなしがあるという都会的アーバンライフとはまったく逆ベクトルの街だった。そして、カラオケも無い高校時代、放課後のエンターテイメントといえばもっぱらゲーセンと相場が決まっていた。
高校時代は一大ゲーセンブーム。対戦格闘ゲームの元祖と言われるストⅡを筆頭にバーチャファイターやサムスピ、KOF、餓狼伝説など数々の対戦格闘ゲームが世に出てきた頃であった。我々も金が無いのにも関わらずほぼ毎日、地元のゲーセンに顔を出していた。さらに一昔前はゲーセンと言えば不良の巣窟と相場が決まっていたが、格ゲーの影響で、不良でない人間も入り浸る様な場所に様変わりしつつあるそんな時代だった。
だが都内ではあるが、都会では無い小金井である。渋谷や新宿ではついぞ見ることがなくなった、不思議なバイクを不思議な格好で不思議な乗り方をする集団、簡単な言葉三文字で表現すると暴走族も未だ現役で、元気いっぱい駅前をぶいんぶいん言わせているような街である。いかに格ゲーが一定の地位を築いたと言うところでゲーセンという暗い雰囲気は払拭されることは無くゲーセンに入り浸る人間も、単なるゲーム好きが半分、不良が半分といった感じだった。
俺はその日も無い金を何とか振り絞り、500円玉を握り締めて今日はどのゲームをやろうかと物色していた。
モリワキは早々に別行動をとり、上気した顔をして脱衣麻雀と格闘中。ネギと俺は最近設置された格ゲーの席に座りコインを投入する。するとコンピュータの一人目とのバトルが終了するのも待たずに乱入者が現れたとディスプレイに表示される。上がり症の俺は、この対戦格闘ゲームというものが大好きなのであるが、非常に苦手だった。なぜなら対人対戦となった途端に緊張していまいコマンド入力がおぼつかなくなってしまうのである。その時も早々に敗退して、ネギの後ろの陣取り戦況を見守っていた。
するとネギの台にも乱入者が現れた旨の表示がされた。ネギは格ゲーが非常に得意で、50円というワンプレイ料金をいかに有効に使うかという基本理念の下、研究に研究を重ねてこのゲーセンでも10指に数えられるほどの強豪プレイヤーとなっていた。その時も乱入者にほぼ何もさせることもなく圧倒的に勝利して俺を振り返ると「いやぁちょろいね!もっと強いやついねぇのかよ!」と自慢げに小鼻を膨らませていた。するとゲーム台の向こう側から
バンっ!!!
と台を殴る音が聞こえてきた。
今も昔も格ゲーで熱くなる人はいるもので、再び乱入者の文字が表示された。またしても圧倒的な勝利を遂げるとネギ不意に立ち上がり、ゲームキャラクターと同じ勝利ポーズをとる。そのあまりに間抜けな姿に爆笑していると向こう側から怒りのオーラをまとった、ゲーム好きとは別人種の方が眉毛の無い顔を出し一瞥すると再び向こう側の対戦台に座るとコインを投入。
「おい!まずいよ相手バリバリのヤンキーだぜ。あんま挑発すんなよ...」
とネギに耳打ちするもどこ吹く風で
「弱いやつが悪いのじゃ、のわはっはっ」
と無いひげをさする姿を見せる。中国拳法の師匠的な人を模しているのだが、どう見てもバナナを剥いているゴリラにしか見えねぇよ、と心の中で思いながら対戦者の怒り具合に不安を感じていた。
その後も眉無しと連戦するもネギの圧倒的勝利。ネギが勝利をする度に眉無しが台を殴る音も大きさを増していった。
戦うこと十数戦。ネギも気を使って負けてあげればよいのに、圧倒的手数で全てをねじ伏せていた。十数戦目を終えた時ついに眉無しの堪忍袋の尾が切れた、というか、単純に眉無しが切れた。
うがぁ!という雄たけびとともに、ゲーム台が押された。椅子に座っていたネギを含めてそのまま押し込まれるとネギが壁に挟まれて「プンぐっ」という不思議な悲鳴を上げる。回り込んで来た眉無しがそれでも気が治まらないのか、壁に挟まったネギの襟首を掴むとそこから引っ張り出し、店の外へと連れ出していった。
慌ててモリワキと俺がその後を追いかける。道端に放り投げられたネギが亀のようにうずくまり、そこに蹴りをぶちこむ眉無しと言う光景を目の前にして、止めに入ろうと1歩足を踏み出した、と顔の横から脚が吹っ飛んできた。
「お前のせいで俺がやっていたゲームの電源がおちただろうがーーーー!!!!終いには殴んぞ!」
と眉無しを蹴り飛ばす謎の人物。そうか、確かに蹴りを繰り出しているから殴っちゃ無いな...なんてどうでも良い事を思いながらあっけに取られていると、その人は眉無しの胸倉を掴んで
「俺の血の滲むような500円返さんかい!」
とボコボコと眉無しを殴り始めた。結局殴るんかい!という突っ込みを胸に押し込みながら見守ると、ネギとのゲーム上での対戦を再現するかのような光景がリアルで展開されることになった。数秒の後、500円を手渡すと逃げ帰る眉無し。と、謎の人物が振り返り俺とモリワキを代わる代わる見て不思議そうな顔をして呟いた。
「あれ?お前たち何か見たことあるなぁ?」
お互いが、お互いを見合わせること数瞬、全員が脳内モンタージュを高速回転させる。顔を少し若返らせて、髪の毛を短くして、色は金髪。服装をスーツからスカジャンに変更して......。全員が同じ答えに辿り着き同時に声を上げる
「あーーーー!!あの時、車にぶつかって来た!!」
「あーーーー!!あの時のサイヤ人!!」
そう、「モリワキを轢いた人物=謎の人」だったのである。名を岩田さん。ゲーセンの常連で強豪プレイヤーだった岩田さん。話をしてみると面白い人物で、すっかり打ち解けて一緒に晩御飯を食べるくらいの仲になっていった。
モリワキとネギ、俺と岩田さんの四人でご飯を食べながら、交通事故のその後の話を聞くと、車は結局フレームがゆがんでいたために廃車。売ろうと思っていたのに丸損したと笑いながらモリワキのわき腹をこずいていた。
小学生vs車という異種格闘技戦で小学生が完全勝利を遂げた瞬間だった。
その後岩田さんとは末永く付き合っていくことになるのだが、それはまた別の話。