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- Re: すいぶ!-南梨高等学校吹奏楽部-【部員募集中!!】 ( No.19 )
- 日時: 2011/05/05 22:27
- 名前: 夕詠 ◆NowzvQPzTI (ID: 8ni6z6qB)
- 参照: http://www.kakiko.cc/bbs2/index.cgi?mode
【harmony.4*バリチュー!】
加賀美部長が米長先輩に土下座しているのを尻目に私たちは練習をする場所を決めていた。
毎年この時期にくじ引きでパートごとに、どこの教室を使うかを決めているらしい。
既に大方のパートの場所は決まっており、あとはユーホニウムとチューバとコントラバスの通称バリチューパートだけだ。
「じゃあ引くよー」
部長に土下座されながら米長先輩はくじを引いた。
そして四つ折りにしてあったくじを開く。
「あちゃー……南棟の二階の音楽準備室だって」
「「えっ!?」」
驚きの声を上げ、落胆するバリチュー。
それもそのはず、今いる音楽室は北棟の四階。
バリチューの練習場所の南棟までには階段を四回分降り、北棟と南棟をつなぐ長い渡り廊下を通り二階まで階段を登らなければならないのだ。
ただでさえ重いのに、そんな重労働まで加わったら次の日に筋肉痛になるのは確実だ。
その時、部室のドアが勢いよく開いた。
ドアの方を見るとふわふわとカールした髪の小柄で華奢な女の人が入ってきた。
走ってきたのか肩が上下しているし、呼吸も乱れている。
「す、すいません!遅れました」
小柄な女の人は加賀美部長ではなく米長先輩に頭を下げた。
……哀れです、加賀美先輩。
「別にいいよ、謝んなくて」
米長先輩の言葉に彼女はホッとした表情になった。
「それより、由里子ちゃん。今日からバリチューの練習場所南棟の第二音楽準備室になったから」
だが由里子と呼ばれた先輩のその表情はこの言葉によって凍りついた。
由里子先輩は項垂れる。
「……練習行ってきます」
そして溜め息をつきながら音楽室を出て行ったのだった。
***
「はぁ〜……もう、疲れた。マジ死ぬわ、私」
北棟から南棟までの長い道のりの中、俺———薬袋翔の後ろで彼女———芦沢由里子先輩は呟いた。
「先輩、まだ北棟の3階じゃないですか。頑張ってくださいよ」
「まだ三階なの……。私、今日が命日になるかもしれない。薬袋、今までありがとう」
俺のねぎらいの言葉に由里子先輩はさらに項垂れた。
俺はチューバ、先輩はコンバスをそれぞれ背中に背負っているから重くて疲れるのは当たり前なんだけれども、俺は中学時代は運動部だったので苦痛ではない。
が、問題は由里子先輩だ。
先輩はパッと見、百五十センチメートルぐらいの小柄。
そして背負ってるコンバスは百七十センチぐらいと先輩の身長以上。
まぁ、百七十センチの女子なんてそうそう居ないかもしれないけど。
そしてこの一週間で分かったこと。
先輩には異常に体力がない。……というか力がない。
それゆえにコンバスを少し動かすだけでも一苦労。
この人は中学時代の持久走とかどうしてたんだろう、と最近思う。
「今までありがとう、ってまだ俺、一年生なんで一週間しか先輩と一緒にいないですよ」
俺は笑う。
すると先輩もそれもそうだね、と微笑んだ。
いつもはあまり感情を露わにしない先輩が、俺だけに見せる表情の一つ一つが嬉しかったりする。
「じゃ、由里子先輩!行きましょうか」
俺はチューバを持ち上げる。
すると先輩は怪訝そうな顔をして、
「嫌だ。疲れた。帰りたい」
とコンバスを抱え、壁にもたれ掛った。
「もう、子供じゃないんですから。行きますよ」
俺は階段を下り始める。
後ろから足音がしないので、振り返ってみると案の定、膨れっ面の先輩がまだ壁にいた。
子供、というよりは駄々っ子だ。そして俺は保護者か。
俺はまた階段を上がる。
「先輩、いい加減にしてくださいよ。なんなら俺が先輩ごと運びましょうかー?」
冗談を言いながらコンバスを持とうとすると、先に持ち上げられた。
「わ、私ごと運ぶとか無理だよ!ひ、一人で持てるもん!!」
そう、ムキになりながらフラフラした足取りで階段を下りていく由里子先輩。
「おもしろい人」
そんな後ろ姿に俺は微笑んだ。