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Enjoy Club 2章 第1話『愛しき日常』(10) ( No.103 )
日時: 2011/09/06 20:58
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)


 急速に遠ざかっていく水の音。確かに前方には水平線が見えているはずなのに、その海すら存在を消し、まるで園香と2人きりの世界にいるようだった。園香は扇の右腕をつかんだまま、黙りこくっている。独り言のように、扇は呟いた。

「抜けられないかもしれない。駄目だと、影晴に言われるかもしれない。それでも、何もせずに信用のおけない奴に使われているのは、嫌なんだ」

 言いつつ顔をしかめると、園香がふっと微笑んだ。それはそれは大人っぽい、魅力的な微笑だった。

「いいわ。あたしも扇と一緒に行く」

 予想していたよりも迷いのない声音に、扇はほっと胸をなでおろす。彼女の自分に対する気持ちは知っていても、やはり少なからず不安はあるのだ。
 口元に笑みを浮かべたまま、園香は首をかしげた。

「迅とハルはどうするの? やっぱり一緒に抜ける?」
「それは本人に聞いてからだな。なにせE・Cを抜けるということは、能力を堂々とある程度の誇りを持って使える場がなくなるということだ。2人ともあまり能力を使っていないとはいえ、一応は一大事だからな」

 園香は黙ってうなずき、つかんだままの扇の腕を唐突に引き寄せ彼の体にもたれかかった。扇が見下ろす先で、彼女は恍惚とした表情を浮かべ目を閉じている。完全に緊張の糸がほどけた扇は静かに微笑んで、彼女の頭に優しく手を置いた。目の前に広がる深く広大な海は、静かに波の音を広げている。

 何となく、先程気付いたことを口に出して言った。

「……今日の服、新しいな」

 園香が瞼を上げる。

「それ気付いてくれるのうれしいけど、重大な話の後だとなんかタイミング微妙よ」

 そんなことを言いつつうれしそうな顔で、園香は澄んだ笑い声を上げた。