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Enjoy Club 2章 第2話『灰に染まる波』(6) ( No.141 )
日時: 2011/11/14 06:07
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)
参照: 作文or説明文みたいになっちゃいました、めちゃくちゃつまんないです;

 9月に入って1週目の日曜日。私は初めて恵玲と共に下橋の地を踏んだ。

 バーベキュー日和のさわやかな陽気。頭上一帯に広がる水色の空には、雲ひとつ見当たらない。昨日までは天気予報で曇りのマークが出ていたのだが、心配は無用だったようである。
 私達が下橋駅で電車を降りると、途端にあの炭と煙のにおい、そして食欲をそそる焼ける肉のにおいが風に乗って届いてきた。パチパチと何かの弾ける音や、皆の楽しそうなざわめき声も聞こえてくる。私は恵玲と顔を見合わせ、思わずにんまりと笑ってしまった。ただでさえ楽しいだろうバーベキューを、あの下橋の人達とやるのだ。楽しくならないわけがない。
 恵玲とタイミングよくうなずきあって、足を踏み出す。改札を抜けると、目の前に広がる広場で規模の大きなバーベキューが行われていた。



 会場は、いつもは学生達がバスケやサッカーに明け暮れている、あの円形の広場だった。なんといっても至極広い。しかし、ざっと会場を見回してみると、その広さでもちょうどよいと思えるほどの人数が集まっていた。緋桜以外の2チームも来ているのだろう。小学生から大学生まで年齢はまちまちで、まともに話したことのない人がたくさんいる。その大勢の人にまぎれるように、バーベキューのセットが用意されていた。肉や野菜を焼く炉が7つほどそれぞれ離れた位置に置かれていて、同じく椅子も適当な場所に置かれている。椅子は寄せ集めなのだろう、木製のベンチのようなものもあれば、1人用の丸椅子もあった。

 その集団に私達が近付いていくと、すぐに風也達が気付いてくれ、中に引き込んでくれた。私達のもとに集まってくれたのは、有衣や功、伸次、夜ゑ、そして他の緋桜の子たちだ。私が遊びに行くのがいつも緋桜なので、自然と緋桜の子達と顔見知りになったのである。他のグループの小学生や中学生達は、興味津々な目でチラチラとこちらを見ているだけだったが、高校生や大学生はさすがに対応が慣れていて、はじめましての挨拶をわざわざしに来てくれた。「はじめましてって言っても、見たことあるし噂にも聞いてるけどな」と、1人の大学生が私を見て楽しそうに笑っている。
 私はともかく恵玲は、有衣達と会うのすら初めてだ。恵玲は小さい肩をすぼめて不安そうに私の横で立っていたが、皆に名前やら私との関係やらを聞かれてはにかみながらもはきはきと答え始めた。ちょっと上目遣いな気がするのは背が低いせいだということにしておこう。その様子を私と風也は内心空笑いをもらしながら見ていたが、他のみんなは可愛いと感嘆の声を上げている。有衣なんか無遠慮に上から下までじっくりと恵玲を見たのち、「やべぇ、こいつすげぇ可愛い。負けたかも」とちょっと真面目な顔で呟いていた。

 そんな感じで恵玲はあっという間に下橋になじんでその辺の集団に連れていかれたので、私は風也と数人の中学生と早速肉をあさりに行くことにした。さっきからいいにおいが周りに充満していたのだ。もう我慢も限界なのである。紙皿と割り箸を握って近くの炉からカルビを頂戴すると同時に、きゅうと小さくお腹が鳴ってしまう。私が肉をつかんだ箸を口元まで持ってきてスタンバイしていると、一緒にいる中学生の子達が笑顔いっぱいでうなずいてくれた。
 皆でせーのとカルビを口に入れる。入れた瞬間に思わず言葉にならない声を上げてしまった。ちょっと焦げるくらいに焼けているのが逆に香ばしくておいしい。濃いたれの味が、バーベキューをしている実感を一気に膨らませてくれた。私は記憶にある限りバーベキューは初めてなので、興奮もひとしおなのである。私がその1枚を堪能している間に、中学生達は2枚3枚と肉を口に放り込んでいた。

「好きなだけ食って大丈夫だぜ」

 風也が、ジュ—ジューと音を立てている肉を目で示す。彼の鮮やかな金髪は、この場ではさすがに煙で少しかすんでいた。頷いて早速炉に箸を伸ばすと、不意に風也が顔をそむけて2歩ほどその場を下がった。振り返って見ると、彼は顔を伏せて目をこすっている。

「ここ煙すげぇくる」

 あまり煙がすごいとは感じなかったので首をかしげていると、おもむろに彼は私の手首をつかみ、移動しようと言ってそのまま建物の近くに引っ張っていった。そこにもちゃんと別の炉と椅子が置いてあるのだ。口を開けて間の抜けた表情で後ろを振り返ると、先程一緒にいた中学生達も手で煙を払いながら別の炉の場所に散っていった。