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Enjoy Club 2章 第3話『ふたり』(1) ( No.155 )
日時: 2011/11/23 09:42
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: AEu.ecsA)


『迅は相変わらずご機嫌ななめだよー』
「そうか。今から最後の任務に行くから、2人に声をかけておこうと思ったんだがな」
『最後、かぁ……。任務で怪我したら僕がすぐに治すから連絡してよー?』
「だめだ、ハルにはやらせない。……それじゃあ迅によろしく言っておいてくれ。朝っぱらから電話なんかして悪かったな」
『大丈夫だよー。リーダー気をつけてねー』



 春妃の緊張感のない声を最後に、扇は通話を切った。ふぅっと肩でため息をつき、携帯をポケットにしまう。唯一明かりのつけてある廊下からリビングに移ると、極力音をたてないように任務の支度を始めた。暗くて何も見えないので、いつもより一段階暗い電気を付けて作業をする。

 扇の癖のない黒髪は適度な長さで、乱れひとつない。軽く横に流した前髪も、目にかからない長さ。よく固すぎると言われるが、乱れた格好が本当に嫌いなので仕方がない。そんな扇が黒縁眼鏡をかけると、さらに真面目そうな風貌が増長するのである。そして普段からほぼスーツと言えるような格好をしているのだが、扇は背が高く肩幅もある方なので、かなりその格好が似合うのだ。ただし、同じ月下の迅とは全く対照的な格好になる。彼は扇とは逆に、崩れた服装や髪型を好んでいるのだ。迅の子供っぽい性格はそれはそれで面白いと思うし全く嫌いではないのだが、服装にだけは正直文句をつけたくなる。ちゃんとボタンを閉めてズボンを上げろ、と言いたくなるのだ。個人の好みの問題なのでケチをつけたことはなかったが。

 扇が黙々とワイシャツのボタンを閉め、薄手のコートに袖を通していると、不意に後ろから声がかかった。

「任務に行くの? 扇」

 園香だった。時間帯が時間帯なので非常に眠気に包まれた声だったが、それでも少し不満げなのは感じられた。

 彼女は今、ソファーに横になってこちらに目を向けている。なんでそんなところに横になっているかというと、昨夜大学の友達と日をまたいで飲んでいて、その足で独り暮らしの扇の家まで来たのである。もちろんそんな時間、扇は任務に備えて眠っていたが。おそらく園香はスペアキーで勝手に中に入ったのだろう。早朝起きたらソファーで彼女が眠っていて、扇は思わずぽかんと口を開けて固まってしまった。その後、扇がコソコソ任務の準備をしていたら、園香が起きてしまったわけである。
 園香はひじ掛けに置いた枕に左の頬をうずめ、扇の行動をとろんとした目で追っている。お酒が抜けきっていない上に、横になっておそらくまだ2、3時間しか経っていないので、半分夢の中なのだろう。いつもはアップにしている髪は解かれ、肩下まである髪が彼女の頬にかかっていた。扇は支度を終えると彼女の方に目をやり、静かに苦笑を漏らした。

「脱退を宣言する前に、最後に能力を使っておきたいだけだ。すぐ帰ってくる」

 返事なんだか寝言なんだかよくわからない言葉が返ってきたが、扇は気にせず携帯で時間を確認した。そろそろ出発する時間である。リビングを出る前に園香に毛布をかけてやり、部屋の電気を消す。1人で任務に向かうにもかかわらず、扇の顔には不安の欠片も見当たらなかった。