コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Enjoy Club 2章 第3話『ふたり』(3) ( No.172 )
- 日時: 2011/12/05 20:14
- 名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
- 参照: 2ページです
——夢を、見ていた。
月下白狼のメンバーと——扇や迅、そして春妃と、初めて顔を合わせた時の……夢を。
E・Cに加入したとき、彼ら3人はすでに同じ月下白狼のメンバーとして、行動を共にしていた。行動を共にしていたと言っても、扇は他の2人と学校も学年も違っていたので一緒にいられる時間は限られていたようだが。それでも一緒になって仲良く騒ぐ男の子3人の輪の中に、女の子が1人後から入っていくのは、なかなかに勇気のいることだった。
この時見ていた夢は、不思議と夢であることがはっきりとわかっていた。それが過去に実際にあったワンシーンだとすぐに気が付いたからだ。緊張に肩を強張らせながら、恐る恐る3人に近付く自分。最初に春妃が無邪気に手を振ってくれて、迅は目を輝かせ自分達の元に早く来るようにと大声で呼びよせて、一人学ラン姿の扇はこちらと目が合うとすぐに目をそらしてしまって。もしかして最初から嫌われちゃったかな、それともちょっと恥ずかしがり屋なのかな……そんなことを思いながら、それでも残る2人の笑顔にほっと胸をなでおろしていた。大丈夫、きっと仲良くなれる。早くあの輪の中に入れてもらわなきゃ。少し足を速めて、3人に近付いて——……。
でも、近付けないのだ。いくら歩いても、距離が縮まらない。焦って、焦って、足を速めるんだけれども、ただただ焦燥感がつのるだけ。春妃は相変わらず手を振ってくれているし、迅も相変わらずこちらに向かって声を上げてくれている。おかしい、絶対。そう思った瞬間、不意に視界が霧にかすんだ。そして、皆の姿がどんどん遠ざかっていったのだ。鋭い絶望感が、胸を突き刺した。
——……違う……!
頭の中に自分の声が響く。
違う。実際はそこで皆の輪の中に入っていって、お互いの名前を教えあって、すぐに溶け込むことができたのだ。今までの緊張は何だったのだろうと、胸をなでおろしつつも拍子抜けしたのを今でも覚えている。
これは……夢。そうわかっていても、自分の足は止まらない。むしろいつの間にか全力で足を動かしている。それでも扇達の姿は余計に遠ざかり、かすんでいくだけ。
——……起きて!
自分自身を叱咤するように叫んだ。足は止まらない。握ったこぶしに汗がにじむ。それでも、叫んだ。繰り返し繰り返し同じ言葉を。夢なのに、扇が、迅が、春妃が……自分から遠ざかっていくのを見るのは胸にこたえた。目頭が熱くなるのを感じた時、予兆も何もなく唐突に、周囲の空気が一気に生々しさを取り戻した——……