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White Day Short Story 2 ( No.202 )
日時: 2012/03/14 22:18
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
参照: ちょっとづつしか書けない……><


「——あ」

 無意識のうちに声がこぼれていた。

 ——……春の匂いだ

 空を仰ぎ見て、風也は自然と眉尻を下げる。絵に描いたような水色の空には、ところどころ曇りのない白い雲がぷかぷかと浮いていた。淡い風はそれを急かす様子もなく、ゆるやかに空を流れている。視界に入って来た木の枝はまだ寒々しい格好のままだったが、中にはつぼみをつけ始めたものもあった。風也は空から視線を移して、自分よりもずっと高い位置にあるつぼみをじっと見つめていた。もちろん小さすぎてぼんやりとしか見えなかったが、それでも花の香りがそこから風に乗ってふわりとかおるような気がした。そのままもう一度意識して息を吸ってみる。不思議なことに、先程のような甘い春の香りは感じられなかった。春はまだそう簡単には捕まえられそうにない。目線を下げて、口元だけに苦笑を浮かべる。

 なぜ風也がこんなにのんびりと風の匂いをかいでいるのかというと、亜弓との待ち合わせ場所にかなり早めについてしまったからである。近くのお店に入って待っていてもよかったのだが、そうするには半端な時間だった。そういうわけで結局、待ち合わせ場所である風音駅の外で、壁にもたれかかりながら周囲の様子に意識を向けていたのである。風音の町は基本的に住宅街ではあるが、駅前の大きな通り——桜通りは、生活に必須のスーパーも、若者向けのブティックも、一息つける喫茶店も様々にそろっているので、都会ほどではなくとも人通りの多い町だった。現に、先程から風也の前をかなりの人数の人が行き交っている。
 風也は薄手のコートのポケットに手を突っ込み、黒い携帯を取り出した。特に目的があるわけでもなく、何気なく画面に目をやる。それと、同時だった。亜弓から電話が来たのは。風也は片眉を上げ、通話ボタンを押すと携帯を耳にあてた。

「——亜弓?」
『あっ、風也、待ち合わせ場所なんですけど変えてもいいですか!?』

 やけに慌てた様子の、というよりもテンションの高い声だった。そんな大変な内容というわけでもないのに。
 不審げに眉をひそめた風也は理由を尋ねようと口を開きかけたが、直接聞けばいいかと思いなおし、わかった、と短く答えた。すぐに彼女からお礼の言葉が返ってきた。

 携帯をポケットにしまい、壁から背を離す。もう一度上方を仰ぎ見てから、風也は心もち軽快な足取りで新たな待ち合わせ場所へと歩いて行った。


(まさかのさらに続く。。。←)