コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Enjoy Club 2章 第4話『知る者、知らぬ者』(3) ( No.250 )
日時: 2012/08/16 11:36
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)

 ——彼の柔らかな銀髪と澄んだ蒼い瞳(め)に目を奪われない人は、そういないだろう。

 闇組織E・Cのグループのひとつ、麗牙光陰のリーダーを務めている少年ウィル=ロイファーは、桜通りから1本はずれた小道である人物を待っていた。

 ウィルが今いるのは風音の街。駅からまっすぐ伸びる桜通りに様々な店が立ち並び、なかなかに活気がある街である。桜通りを抜けると閑静な住宅街が広がり、歩いていける距離に学校も公園もスーパーもあるという、住みよいところだ。ここには恵玲の家もあるため何度か訪れたことがあったが、特別大きな問題もない平和そうな街というのがウィルの印象だった。今度引っ越す機会があったら風音にしようかと思っているくらいである。
 ただ、とウィルは後ろの塀に軽く背を預けて腕を組み、桜通りとは逆の方向に意識をやった。桜通りから何本も道を外れ、住宅街からも距離を置いた、あまり人の寄りつかない方向を。そこに今回の任務の標的がいるはずだった。風音の町で唯一煙たがられている場所だ。

 ズボンのポケットから白い携帯を取り出し、時間を確認する。約束の時間まではまだ10分はあった。携帯の画面に黄色い西日が照りつけている。……携帯だけではない。黒い半そでの服にも、ウィル自身の白い腕にも。ウィルは携帯を元の場所に戻すと、これから行う任務の内容を頭の中で確認した。
 月下白狼が調査まで終えた任務を引き継いでくれ、というのが主・影晴の話だった。月下にはまた別にやってほしい任務があるから、麗牙の方でこの任務を実行に移してくれ、と。もちろんウィルは二つ返事で承諾した。月下のやりかけの任務を引き継ぐことはそう珍しいことではなかったし、要は今まで通り目の前の任務をこなせばいいだけのこと。断る理由もなければ、そんなことをする気もウィルには毛頭ない。ちなみに主からの情報によると、今回の標的がいる住宅街からも繁華街からも外れた場所、そこはいわゆる不良たちのたまり場になっているらしい。

「後藤雄麻という青年が獲物を持っているはずだ。素人ではあるがケンカに関してはそこそこできるだろうから、恵玲を連れていった方が無難だろうね」

 主は電話口でそう言った。いつも通り穏やかな声だった。任務の失敗の可能性など頭の片隅にも置かれていないかのように。彼の声を聞くと、ウィルは体の内側から自信とエネルギーがあふれてくるかのようだった。現に、思い出しただけで口元には笑みさえ浮かんでくるのだ。

 ——……信じる。ぼくは、影晴様を

 今まで何十回も繰り返してきた決意。それを再度胸の内で固め、虚空をにらむように見据えたとき、右手の方から耳慣れた快活な声が聞こえてきた。

「ウィルくん、お待たせっ」

 声のした方を振り返ると、待ち人——荒木恵玲がうれしそうな顔で駆け寄ってくるところだった。学校帰りなのだろう。バッグを右肩にかけた制服姿で、やはりというべきか、極度のミニスカート姿である。小さな顔の両側では、2つに結われた髪が彼女の動きに合わせてぴょこぴょこと跳ねていた。
 ウィルは表情を緩めると、申し訳なさそうな声で言った。

「ごめんね、恵玲。今朝も任務だったのにまた来てもらっちゃって」

 すると彼女は目をぱちくりとさせ、すぐに首を横に振る。

「ううん、全然大丈夫だよぉ。朝のは簡単な任務だったし。でももしかしてあたしが任務続いたのって、白波くんと連絡が取れないからだったりする?」

 軽く首を傾けながらの彼女の鋭い指摘に、ウィルは思わず苦笑を漏らしてしまった。まさにその通りだった。よくあることではあるが最近白波と連絡がつかないため、今日2つ続いた任務の両方に恵玲を当てたのである。ウィルの反応を見て恵玲も察してくれたようだ。「今頃何してるのかなぁ、白波くん」とちょっと困ったような声で呟いていた。

 そんな時である。またもや耳慣れた声がすぐそばから聞こえてきたのだ。

「ウィル兄ちゃんと恵玲姉ちゃん、2人してなんで困った顔してるの?」

 ハッとして声のした方を見ると、ツインテールでセーラー服姿の女の子がこちらの様子を見つめていた。E・C最年少の少女——棚妙水希である。ウィルと恵玲は思わず同時に、「みぃちゃん!」と驚き声をあげていた。そんなウィルたちに、水希はふふっと笑って言った。

「さっき桜通りで恵玲姉ちゃんを見かけて、追いかけて来ちゃったの」

 桜通りを歩いた覚えがあるのか、隣で恵玲が合点した顔で手を叩いている。とりあえず事情が分かったウィルは、こちらの状況も彼女に説明してあげた。これから任務があって待ち合わせをしていたこと。今回の相手はケンカがそこそこできるだろう不良たちであること。まぁケンカに関しては、なるべく力での対決にならないように作戦を練る気ではいるのだが。
 一度近くを近所の住人が通ったのでその時だけ話題をそらしつつざっと話し終えると、それまで真っ直ぐな目をこちらに向けて黙って聞いていた水希が、にっこりと笑った。なんだか頼もしい笑顔だった。

「そしたら私も手伝うよ。最近任務あまり参加できてなかったし」
「それは学校があるし、能力柄しかたないよぉ」

 自分のことは棚に上げすぐにフォローを入れた恵玲を見て、水希は切れ良くうなずいた。

「でも今日はもう学校も終わったし、そんなに大変そうな任務じゃないし。少し離れた所からサポートするよ」

 たしかに“光と闇”の能力を持った彼女がいてくれたら、任務がさらに楽になる。ウィルは隣にいる恵玲と顔を見合わせ、大きくうなずきあった。これで白波がいてくれたら久しぶりに全員そろった任務になるのにと、ウィルは恨めしい気持ちで何気なく空を振り仰ぐ。しかし目に映ったのは、水色の空と大きく膨らんだ白い雲、そして気持ち良さそうに風に乗る一羽の鳥だけだった。