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Enjoy Club 2章 第4話『知る者、知らぬ者』(6) ( No.262 )
日時: 2012/11/02 20:38
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)
参照: http://ameblo.jp/aozor-aqua/

 二度のノックの後に扉を開けて入ってきたのは功だった。緋桜の頼れるサブリーダーだ。外から帰ってきたばかりなのだろう、黒いジャケットを羽織りバッグを肩にかけている。
 緋桜の家の2階、一番奥の物置と化している部屋で突っ立ったまま考え事をしていた風也は、軽く目を見開いて入り口を振り返った。この部屋は普段から人気がなく他よりも冷えた空気が漂っている。自分の世界に入って考え事をするにはちょうどいい場所なだけに、突然人が入ってくるとそれなりに驚いてしまうのだ。

 功は扉を閉めずに枠に寄りかかると、「亜弓は?」と腕を組んで一言尋ねた。予想通りの問いかけだったのですぐにうなずいて、隣の部屋との壁を見る。

「寝室で爆睡してるよ」

 穏やかな笑みを交えてそう言う風也に、功はうなずいた。

「……ほっとしたんだろうな。有衣とかならともかく、普通のやつが不良どもにケンカ売られたら絶対怖いもんな」

 静かな低い声。功はがっしりと腕を組んだまま、同じく寝室の方を見やる。それからしばらくどちらも口を開かず、刻々と時が過ぎた。どちらもいつの間にか深刻な面持ちになっていた。

 亜弓が不良にからまれたと言って電話をかけてきたのは、つい先刻のことだ。ただでさえ亜弓にとっては大事なのにからんできたのが後藤のグループの男達だと聞いて、その場にいた風也と有衣は憤慨した。下橋に恨みがあるのはよくわかっているが、亜弓には全く関係のない話だ。とりあえず急いで迎えに行き緋桜の家に連れて帰ると、亜弓は半泣き状態で事のいきさつを話し、そのまま緊張の糸がほどけたのか眠ってしまった。その時功はいなかったから、きっとたった今家に帰ってきて有衣から事情を聞いたのだろう。
 風也は視線をやや下に落として、唇をかんだ。危なかった。“見知らぬ銀髪蒼瞳の少年”とやらが助けてくれなかったら、今頃どうなっていたかわからない。

 扉のきしむ音が聞こえ顔を上げると、後ろ手に扉を閉めた功がこちらと目を合わせて言った。どこか不安そうな表情をしていた。

「後藤のところに行くのか?」

 少し間をおいて、風也は首を横に振る。彼が何を言いたいのかはわかっている。

「ぶっとばしには行かない。“他の不良どもと極力ケンカはしない”っていう掟はオレが作ったもんだ。仮にもトップが破るわけにはいかねぇよ」

 落ち着き払った声だったが、正面に向けた瞳は押し殺した怒りにぎらついている。功も「ん」と一言相槌を打つのみで、それ以上何も言わなかった。しかしおそらく彼も同じことを考えているはずだ。……このままにしておくわけにはいかない。また亜弓がケンカを売られる可能性は十分にある。

 ——……話が通じる相手とは思えねぇけど、もう放っておくわけにはいかねぇよな

 かつて下橋で好き放題やり散らしていた後藤雄麻の顔を頭に浮かべ、風也は舌打ちしたい気分で固く瞼を閉じた。