コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 金曜日(ほとんど)に出る三題話!みんなで書くページ! ( No.11 )
日時: 2011/06/17 20:29
名前: 北野(仮名) (ID: bEKYC/sm)

球場の熱気は凄かった。

なぜか虎ファンはとても熱狂的で応援がものすごいことになるが、巨人ファンも負けてはいない。

一切盛り上がる気のない俺は、周囲の空気に終始押されっぱなしだった。


しばらく見ていると、一度ホームランでファールかフェアか微妙なプレーがあった。

悩んだ挙げ句、審判はフェアの判定をだし、ホームランを打った阪神側の応援がどっと沸き立った。

俺が
「今のはファールだろう…」
と呟くと、
『そうだな、今のは明らかにファールだったな』
と機械の声がどこからか聞こえてきて、少し驚いた。

『ほう。小僧、お前は私の声が聞こえるのか』

その声の主はスタンドライトだった。

『この角度からだとよく見えるぞ。今のはファールだった。』

「…そうだよな。まあ別に俺は阪神が勝とうがいいのだけどな」

『何!?お前巨人ファンじゃないのか?自分の応援するチームに不利な判定がでて憤慨しないなんて!』

「一応巨人ファンだが、そこまで勝ち負けにこだわらないんだよ。それよりお前は甲子園のライトなのに阪神ファンじゃないんだな」

『昔はそうだったんだがな、どうも最近の阪神はナヨナヨしていて気に入らん。だからいつも甲子園でゲームがあるときは相手のチームを応援しているんだ』

「へぇ…そんなもんなんかね…」

そこで俺はスタンドライトに別れを告げ、一旦トイレに行くため席を立った。


≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫


トイレから出てくると、入り口の前に朝見た元気なラメ虎Tシャツのじいさんがいた。

だが、なんだか様子が変だった。

フラフラとして、足取りがおぼつかない。

(なんだろなー)
と思いながら見ていると、じいさんは
突然倒れた。

「ラメじいさんどうした—————ッッッ!!!!!!!!」

慌てて俺は球場の係員を呼び、じいさんの手当てをしてもらった。

「あー、これは重度の熱中症ですねー。あなた、何か飲み物持ってますか?」

「あいにくさっき飲み干しちまったよ。そう言うあんたは持ってないのか?球場の係員なんだから水くらい持ってるだろう?」

「すいませんねー。残念ながらいま給料日前でして、そこまで余裕がないんですよー」

「給料関係あるの!?というか、水も用意できないって、そうとうヤバイよな!?」

「分かっていただけましたかー?ってことで、なんか飲み物用意してください」

「ひでぇ係員だな!?」

俺は泣く泣く死ぬほど高いお茶を買ってじいさんに持っていった。

医務室に着くとじいさんはもう体を起こして元気そうにしていた。

係員に殺意が湧いた。

‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖‖


じいさんは名を長谷蔵と名乗った。

ずいぶん古くさい名前だな、と思ったことは心にしまっておくことにする。

じいさんはどうやら病気の関係でもうあまり先は長くないらしい。

だから死ぬ前に思う存分好きな野球を見ておこうということらしい。

「はっはっは、まさか応援する球団が敵対している少年に助けられるとはな。ワシももっと強くなって若いもんに負けんようにせねばな」

「お元気なんですね…(さっさと観戦に戻らせろよ)」

「ハハハどうじゃ、少年。お前から見てワシはまだまだ走り回れるくらい元気に見えるか?」

「たぶん、…………」
「ハッハッハッ、そうかそうか、若者から見てもワシは現役か!なんだか俄然やる気が湧いてきたぞ!!」

…ダメだ!言えない!
"たぶん"のあとに"無理"がつく予定だったなんて……

「まあいつまでも元気に現役でいてください…」

俺はそう言ってそそくさとスタンドに戻った。


/\/\/\/\/\/


試合はもうほとんど終わっていて、巨人の快勝だった。

大事な場面を見逃してしまい、ややあの長谷蔵とかいうじいさんが憎かった。

特に他に見るものはないので、甲子園から出てその辺を歩き回ることにした。

甲子園の周りは以外といろいろあって、特に暇になることはなかった。

近くのマクドでコーヒーだけで一時間粘ったあと、
「そろそろ帰るか…」
と立ち上がったところ、突然機械の声が聞こえてきた。

『小僧、小僧!私の声が聞こえるか!

必死に叫んでいた。

どこかで聞いた声だなぁ…
と考えていると、久々に腕時計がやかましい口を開いた。

『相棒、ありゃ昼間のスタンドライトの声だぜ!』

「ああ、確かにそうだ。なら返事しても大丈夫だな。
なんだスタンドライト!俺はここにいるぞ!」

『どこだ!!私の位置からでは見えん!見えるところに来てくれ!重要な話があるのだ』

「なんだよ俺今から帰るとこなんだよ…」

『おい相棒!いくらなんでもそれは冷たすぎるんじゃねぇか?あんなに必死なんだ、きっと何か大変なことがあったんだろ!!」

俺はしぶしぶという言葉がぴったりくるような気分でスタンドに戻った。


(((((((((((○))))))))))


スタンドに戻る途中で、ひと悶着あった。

一度出たのだから、もう一回金を払わなければならないと受付のやつに言われたのだ。

機械に、スタンドライトに呼ばれたなんて言えるはずもなく、俺が返答に困っていると、小声で(そんなことしなくてもいいのに)腕時計が囁いてきた。

『…相棒!忘れ物ってことで一旦入らせてもらえ!』

俺は納得すると、慌てて言った。

「席の方に忘れ物をしたんです!!正直他の人に盗られていないか心配で……!」

受付のやつは突然そんなことを言い出した俺を若干怪しみながらも、一応通してくれた。

「ありがとよ、腕時計」

『礼なんていらないぜ、相棒!俺とお前の仲だろう?』

そんなカッコつけた腕時計のセリフが気に入らなかった俺は、パシリと軽く腕時計を殴っておいた。