コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金曜日(ほとんど)に出る三題話!みんなで書くページ! ( No.14 )
- 日時: 2011/06/28 22:42
- 名前: 北野(仮名) (ID: uel54i.x)
「準備OKっと」
小脇に分厚い紙の集落を抱えた誠二はロッカー室から出た。すでに外には人がいなくなっていた。上から見たときには崩壊していた体育館もいつも通りにそこにある。人がいないガランとした殺風景な場にかすかに聞こえるギャアギャアと騒ぐ声。おそらくまだ連中と交渉しているのだろう。そこに、突如響き渡る誰かの足音。その歩みは確かにこちらへと近づいている。カツンと小石を蹴る小さいのがこだまする。足に当たったであろう小石は跳び跳ねながら転がってきた。逃げる暇は無いようだ。もっとも、初めからそんなことをするつもりはないが…
「ま、先手必勝だな」
手に持つ分厚い本を開き、中から円錐状の普通のものよりやや大きめの何かを取り出す。左手でその立体を持ち、右手で先端の尖っているところから垂れている細長い糸を持った。するとついに敵さんが姿を現した。銃を持ってサングラスを掛け、黒いスーツに包まれている。どこぞのロボットだよ。どいつもこいつもテレビの見すぎだっつの。誠二は、そんなふざけたことを考えながらも冷静に右手に握り締めている糸を引っ張った。
ドパンッ!!
何本もの紙テープと共に中に入っている火薬が炸裂する。だがまあ言ってもクラッカー。人を攻撃するような威力は無い。それでも不意討ちとして威嚇させるのはできる。案の定いきなり現れたそいつは驚き跳び退き、段差に引っ掛かり尻餅を着いた。
「おもちゃかよ。ビビらせやがって」
ズボンの後ろ側の汚れをはたきながら起き上がった。やや機嫌が悪そうに、眉間に皺を寄せて銃口をゆっくりと持ち上げて誠二に照準を合わせた。顔色一つ変えずに引き金に指をかける。かけた指にゆっくりと力が込められていく。それに従い、引き金も湾曲していく。そして、銃弾が撃たれようとしたその瞬間、
ピッ
引き金が完全に引ききられる。サイレンサーが備わっているようで静かに銃撃は放たれた。弾はすっと誠二の横を反れていくように見えた。実際のところ誠二が避けたのだが、そんなことができる訳ないと高をくくった男はそう思ったのだ。何にせよ、当たらなかったことには変わり無い。
「外したか…」
「避けたんだよ」
「馬鹿なことを言うな」
短い会話が終わった刹那、男は動いた。右足で地面を踏む。左足を蹴り上げ、ものの数歩で五メートル近くあった距離がなくなる。それに即座に反応した誠二は構えをとる。目の前の男が自分から見て右側の腕を引いた。それを見て右腕でいなし、受け流す用意をする。振りかぶった左手が受け身をとろうとしている右手に近づいているときに、腹に痛みが走った。目線を下にずらすと脇腹に右腕が食い込んでいた。
「痛っ…!」
「舐めんなよ。俺のフィールドは肉弾戦だっての。フェイク入れるぐらい訳ねーんだよ」
「なるほど」
強がってみたがはっきり言う、かなり痛い。さすがに骨は折れていないが痣は幾分か残りそうだ。でも…これならいいね。使ってもお咎めがなさそうだ。
「フルパワーで使えるよ」
「あぁ?てめぇ何言っ‥」
———時計の力を
「お前‥‥当たりか」
強敵を見つけた、そう顔に書いてある。さも嬉しそうに舌なめずりをする。野生丸出し、蛇かっつーの。それとも…戦闘狂?痛みは思ったよりも強く、耐えるだけで全身から汗が噴き出している。顔に浮かぶそれを手で拭い、口に入り込んだそれを唾と一緒に吐き出した。ペチャッと地面に当たり、コンクリートの上に、浸透することなく広がる。
「いーや、外れだよ」
片目をつぶり、顔をしかめ、痛みに耐えながら右手の人差し指を左手首の辺りに持っていく。その様子を見て男は一旦距離を置いた。
「言うねぇ」
楽しむようにニヤリと一瞬笑った後、舐められたことに対して目を細めて片側だけ口の端を持ち上げて苛つきを顕にした。目からは真剣さと不真面目さが滲み出ている。左足を地面に付けて動く気配の無いまま、右足を浮かせてジャッ、ジャッとコンクリートの上で砂を擦り掻き回した。
「だったらそうだな。倒した後で弱すぎたと、守人にしては外れだったと盛大に言ってやるよ」
お互いの目に映ったのは殺気を湛えた目で自分の姿を睨み付けるお互いにとって邪魔な人物。若干の沈黙が訪れる。とても短い、あって無いような微妙な間隔だったが、準備をするのには充分だった。神経を研ぎ澄まし、感覚を鋭敏にすることで自身の肉体を最高潮に持っていく大の男に対し、誠二は対照的に穴が開くほど、じっと敵の姿を眺め続けていた。何かのタイミングを測るように、ただひたすら観察していた。そういう二人である、観察に終わりなど無いので、必然的に先に動くのは男の方だという事になる。ポテンシャルを最高点に達させた瞬間、勝負を仕掛けた。さっきからずっと右足で擦り、足元に蓄めておいた砂の山を蹴り跳ばした。音を立てることなく、砂ぼこりは宙にゆっくりと舞い上がる。無風の状況下、砂は払われることなくゆっくりと地面まで自由落下するだけ。それが地に落ちきる前に蹴りを入れられる間合いに入り、なおかつ放つ自信があった。砂ぼこりが舞っているのでこちらからも向こうの姿はよく見えない。だが、影で大体だが、位置は掴める。男は、槍の
一撃のように、鋭く素早い蹴りを放った。
ピッ
ゴンッ!
妙な機械音のした後に爪先が何かに当たる手応えを感じる。仕留めた、そう思ったときの話だ。突然沸き上がる凄まじい痛み。まるで金槌で思いっきり足の指を叩きつけられたような激痛が爪先から全身へと駆け昇る。
「何しやがった?ガキが」
「何言ってんのさ勝手に柱蹴っといて」
砂煙が晴れたとき、ようやっと分かった。自分が蹴ったのはただのコンクリートの四角柱だと。
「……なぜだ?」
「何がだ?」
「お前は確かに動いていなかった。避けていなかった。なのになんで俺は柱を蹴っているんだ?」
「さあな」
パラパラと紙をめくる音が小さく反響する。
「フィニッシュだ」
身の回りに大量の黄色い正方形を型どった紙片が大量に散布する。中心には茶色い粉が押し固められたようなものがろうみたいなものに包まれている。昔陸上部だったこの男はすぐにこれが何か分かった。雷管だ。
「着火」
火を点けた状態でライターを放る。回転しながら放物線を描いている。そして、紙片の山へと…
「待っ…」
ドパパパンッ!!
凄まじい爆音を上げ、その音のショックで気絶させた。
「まずは一人」