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Re: 金曜日(ほとんど)に出る三題話!みんなで書くページ! ( No.15 )
日時: 2011/06/28 22:44
名前: 北野(仮名) (ID: uel54i.x)

これは辞書たちの続きですが、この話のお題は
サッカーゴール、禁固刑、効果音です


「教室に戻るか」

グラウンドのトイレに倒した奴を無理矢理押し入れて、出れないように外に用具入れなどを置いて、閉じ込めた後に、誠二はパンパンと手で手を叩き、埃を払った。普段使われていないこのトイレは薄汚れていて、埃は浮き、舞ってすらいる。ただでさえ不潔な場所なのに、違う意味で汚いともなると、すぐにここを出たくなった。忘れ物が無いか、しっかりと確認する。辞書も持ち、腕時計も腕に付きっぱなしなのを見て、その場を後にした。

▲▼▲

「ただいま〜」

そんなことを言って教室の前に帰ってきたが、出迎えはほとんど無かった。相も変わらずギャアギャア騒ぐクラスメート共。それを、姿を隠し、教室内から超常の力で、正義の道具である宝具で圧迫するクズ共。

「どけ」

辞書を片手に、腕時計を携えて、群衆を掻き分けてドアに近づいていく。ただ怒っているだけの奴も、野次馬も、穏便にすませようとしている奴も、俺から見たら危ないだけで下がっていてもらいたい。手元の分厚い本をパラパラとめくった。カ行のあたりで二ヶ所のページをすぐに開(ひら)けるようにする。

「ガスマスク」

一旦表紙に近い方のページを開く。そして、ガスマスクと言った瞬間、誠二の手にはそれの実物があった。目と口のあたりが、独特な形をしている、金属製のずっしりと重い仮面。

「クロロホルム」

次に出てきたのは硝子の小瓶。中には液体が波打っている。まず誠二はガスマスクを被った。そして、なにが起きているのかさっぱりの連中の目の前でそのガラスビンを床に叩きつけた。

「ここから先は一般人は見てはいけない」

すでに気化した麻酔薬を吸ったみんなはその場に目を閉じて安らかに伏していた。摂取しすぎないように廊下の窓を開けてからまたしても鍵のかかったドアに向かい合った。

「プラスチック爆弾」

辞書のハ行のページを開く。そしてそのまま、その部分をドアに押しあてた。ドア一面を危なっかしいものが取り囲む。次に、タ行のページを開いた。

「突風」

凄まじい威力の風が吹き乱れ、転がっているクラスメートたちをいとも容易く吹っ飛ばした。最後に、自分が被爆しないためにその場から離れた。ドアを包み込む物体と共に取り出したスイッチの、上端の赤い部分をめり込ませた。

ズンッ!!

あの時の、最初ここに来たときと同じ感覚がする。腹の奥を突き抜ける衝撃が、爆音が、火薬が、陸上と同じように勝負のスタートを告げた。

「ここまで逃げなくても良かったかな」

安全を確保するため、必要最小限しか爆弾を置かなかったのでドアの端だけを爆炎が包む程度で終わった。サイズが合わなくなり、バタンと倒れ落ちた。

「…誰だ?」

いきなりドアが紅炎に包まれたのを見た内側の人間は状況がすぐには理解できなかった。

「宅配便、だと思ってくれたらいいよ」
「分かったお前が守人か」

始めの方にドアを内側から打っ叩いたであろう大柄の男が立ちふさがる。

「宝具を届けに来た、ということか?」
「届けるのはペナルティさ、ルール違反は粛正しないといけないだろ?」

男の眉の端が少し上がる。瞳の色が、暗く冷たくなる。ただの挑発と思ってまともに受け止めていないが、ペナルティは実在する。それを決めるのは俺なんかじゃない、他ならぬ道具自身だ。

「罰を軽く見るなよ。お前たちはもう闇中禁固はとりあえずほぼ決定してるんだからな」

先ほど眉を釣り上げたときに細められていた目が見開かれる。前の奴はそんなことは言わなかったぞ、そう言いたそうな目だ。全く単純極まりない、いつも俺がこう言ったらこれなんだからな。

「俺の業界、“こちら側のセカイ”での俺のジョブ(役目)はジャッジマン、裁く者だ」
「こちら…側の?」
「ああ、超常のな」

誠二はそう言いながらまたしても手元の辞書に手を掛けた。

「させるか!」
「なんてな」
「!?」

ドガアァンッと激しい爆発音が外から聞こえる。暗く淀んだ銃口を男が俺に向けた瞬間にその騒音がこだました。何事かと思い、すぐさまそいつは反応した。つい今自分に向けられたばかりの銃口がそっちに向けられたのを見て、誠二はほくそ笑んだ。

「予想通りだ」

視線の先にあった物はスピーカーだった。ロッカーの前でもう一人の男を倒した後に外から教室のベランダに転送しておいたのだった。これから発せられた効果音に目の前のそいつは見事に反応した、という訳だ。

「じゃあな」

さっき銃口を向けられることで遮られた行為を再開する。パラパラと流れるように辞書のページをめくる。その指は的確にサ行のあるページを差した。

「しまっ…」
「サッカーゴール!」

相手の上空にサッカーゴールが現れる。気付いたときにはもう遅かった。教室に、白く重たいそれは悪人を下敷きにして軋みをあげる校舎にのしかかった。ほんの少しの嗚咽をもらし、意識を無くした。