コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: a lot of stories ( No.2 )
- 日時: 2011/06/13 17:22
- 名前: 北野(仮名) (ID: XK5.a9Bm)
滝、段ボール、ビックリ箱続き
「これのせいか…」
俺たちは山頂、つまりは滝にたどり着いた。晴れた日が長らく続いていたので水量は今ほど多くは無かった。だが、やはり霧は相当なものだった。ふとあいつは上空を見上げた。そして食い入るように視線を止めた。それを追うように俺も空を見上げた。そこにはぼんやりと霞む春の柔らかな陽射しが射し込んでいた。催眠にかかったようにぼうっと、うっとりとまばたきを忘れるほどにあいつは眺めていた。あいつは風情のあることには敏感で平安時代に生まれたら良かったのにと思ったほどだった。
「何だ?この箱の山は」
突如俺は四角いものの群れにぶつかった。茶色い紙の箱がピラミッド型に積み重ねられていた。当然、紙なのでぐちょぐちょになっていた。和歌山みかんだの青森りんごだの剥げかけた塗装がこびりついていた。
「んだよ、段ボールか」
押し潰せば水が滲み出てきそうな正直言って気色悪い箱に手をかけた。どかそうと思って片手で持とうとしたら空ではなく中身が詰まっていた。仕方なく上から順に取り除いていくことにした。一番上の段ボールをゆっくりと地面に降ろそうとしたその時、手が滑り、誤って地にぶちまけてしまった。そこにゴロゴロと転がり出たのは…
「林檎かよ…」
青森りんごから転がり出たのはよく熟れた真っ赤な果実だった。何か怪しいものでも入っているのではないかと一瞬考えた俺としては少しありがたかった。そんなことを考えた瞬間の話だ。俺が一番上の段ボールを取って重心がズレたようで全てが崩れ、倒れていった。不法投棄された様々な果実が次々と雪崩を起こしている。
「きれいな空だなー」
そして俺は堂々と現実逃避した。ドッパァンとやたらと大きい音がした。段ボールがそのまま落ちたんだろうなと思いながらあいつを探しに戻った。この判断で後になって悔やむこととも思わずに。
「全くどこ行ったんだ」
さっきまであいつがいた場所に行ってもその姿は無かった。辺りの霧はより一層濃く立ちこめてきているような気がした。ふと、水の落ちる轟音の中にピチョッと小魚が跳ねるような音がした。流石に水がきれいなだけあって魚がいるんだなと思いながら滝壺の辺りを見てみた。確かにそこには魚の群れがあった。だが、滝壺は遠く、ピチョッという弱々しい音はなかなか聞こえてこない。せめてバシャッとかのはずだ。そのわずかな違和感を感じ、足元の辺りを覗き込んだ。するとそこには…
「よう、助けてくんね?」
断崖絶壁にぶら下がるかのように垂直に降り立つ岸にあいつはしがみついていた。冗談を言ってはいるが全然大丈夫そうではない。岩壁を掴む指からは血が滲んでいる。腕も震えている。助けようと思ったがあいつがぶら下がっている位置は俺のいる地点より3メートルぐらい低く、腕を伸ばしたところで到底届きそうにない。俺がどうするか試行錯誤していると何を考えているのか衝撃の言葉を口にしやがった。
「帰れ」
「はぁ?」
「早くしろ」
「なんでだ!?」
「もう無理だ。位置が悪い。体力的にも限界だ。正直俺のエグイ死体を見られるぐらいなら見捨ててくれた方がありがたい」
「待て!もう少し考えて方法を探せば…」
「最後に言っておく」
「何をだよ!」
「この滝は自殺の名所なんだってな。俺はそんなもんしたかねえが。ま、何にせよだ。この滝でこういうことは…」
あいつは、ほんの一瞬だけ俯いた。だがすぐに顔を上げて悲しいほどに笑った。
「よくあるこった、気にすんな」
なぜあんな時に笑えたのであろうか。崖に赤い指の後を残して霧の中に消えてしまった。
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「本当に…すまない」
———気にすんなって言ったろ?
「え?」
突如どこからか声が聞こえてきた。頭の中だけに響くように。聞き覚えのあるあの…
—————楽しんでるみてえじゃねーか、ライフセーバー
「まさか、いやいや」
幻聴だよな、だってあいつは確かに滝に…
—————じゃあな、頑張れライフセーバー
最後に笑い声だけがこだまして声は途切れた。
何が変わったのであろうか、その滝に二度と霧がかかることは無かったという話だ。
一つ目終わり
この話重いけどそのうち明るいの入ります