コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: a lot of stories ( No.3 )
- 日時: 2011/06/13 17:29
- 名前: 北野(仮名) (ID: XK5.a9Bm)
これはプロ野球をしてる
日本語を使う国と思って
また話重いけどホンマに明るいの入るから!信じて!
先言っとくけど作者は阪神嫌いじゃないぞ。
お題
阪神、信号、おじいさん
これはとある年の巨人ファンの話。
「なーにーが阪神の優勝だ!くそっ!」
ガンッ!
路地裏の古いちんけなバー、そこで男はやけ酒を飲んでいた。店内はきれいと言うには程遠く、うっすらと埃が浮いている。背の低い、腰のまがったご老人が一人で経営している。そんな中で、空になり氷だけが淋しく残ったやや大きめのグラスを台に叩きつけた。木製の少し染みがついて汚れた横長の台は軋みを上げて大きく揺れた。その音を聞き付けた他の客はほんの少しの間驚きを隠せなかったが、すぐに自分のグラスに目を戻した。そんな視線をも気にも止めずに男は褐色の液体を一息に飲み込んだ。イライラの募る体に鎮静剤代わりのアルコールが浸透する。
「阪神ファンなんて……」
この男は別に阪神は嫌いではない。阪神が勝つだけで怒り狂う熱狂的な巨人ファンでもない。ならばなぜ阪神が勝って機嫌が悪くなっているのかというと、そこにはある一人の阪神ファンとの物語がある。
男は少年時代、阪神ファンであった。正確には熱狂的な阪神ファンに連れられていたせいで自他共に阪神ファンだと思い込んでいたのである。その狂人が誰かというと男本人の祖父であった。普段は至って温厚な年配の方といった印象だが、ひとたび阪神が絡むと鬼神のようだと言われていた。巨人だけではない。あらゆるチームが阪神に勝つだけでマジギレ、果てには物にあたり散らし手に負えない。阪神ファンはもうちょい温厚だと俺は思うが………そんなある日のことだ。阪神が優勝したのは。大阪一帯が熱気に包まれた。なんかよくは分からんが十数年ぶりの優勝らしかった。自分が生まれる前に優勝したのがラストだったと言うことだ。そんなことよりも今の要点はじいさんがそれほど熱狂的な阪神ファンだったということだ。よく少年時代にその感情のアップダウンに付き合ったことだ。そのことを思い出し、嫌な思い出だと苦笑した。では、実際どんな出来事が起こったのか話していこう。
「うおおぉっ!!」
それまでテレビにかじりついていたじいさんがいきなり叫んだ。0対0、9回裏、ツーアウトで走者のない場面でいきなり四番がHRを打った。これにより阪神は優勝した。耳を澄ますと隣や向かいの家でも歓声が上がっている。カラフルな小さな点が画面の中で縦横無尽に空を走り回っていた。赤や黄色のそれは、おそらくジェット風船だと思う。「よくやった、よくやったぞ安部!」
しきりにその打者を褒めちぎっていた祖父に合わせて幼く、何が起こっているか深く理解しないままに手を叩いていた。打った打者本人も、自分がこうしたんだという自覚を持てていなさそうに電工掲示板をピントの合わない目で眺めていた。
「宴会じゃあっ!」
浮き足立ちながらも、財布を手にとって近くの居酒屋に阪神ファンの集いに出かけていった。なぜか………俺を連れて。あそこには同じ年ごろの男の子がいた。保護者の付き合いが深いので、お互いに仲が良く、年長者達で盛り上がっている隣で走り回ったりして遊んでいた。名前までは覚えていないが。
「じゃ、念願の優勝を祝って」
そこの店の店主がそう言った瞬間に弾けるようにまた騒ぎだした。今から考えると無理もない。待ちに待った勝利の前にはどんな祭りも色褪せて見えるだろう。その日の夜は夜が明けるまで騒がしかったかもしれない。でもそんなのどの家も同じだ。
「お前らも飲むか?」
いきなり、すでに調子乗って酒をかっ喰らい、ベロンベロンに酔っ払ったじいさんが来た。
「飲むか!」
未成年どころかまだ幼稚園児の自分達はすぐに断ったが、酔っ払いのしつこいことしつこいこと……
途中からの記憶が無いので途中から寝てしまったのであろう。カチャカチャと陶器の擦れる音に起こされた。騒ぎ倒した大人たちがせっせと後片付けをしていた。その中に自分のじいさんの姿もあった。よく見るとみんな顔色が悪い。二日酔いだと言っていた。
「わしらは片付けておくから遊んでこい」
頭痛に顔をしかめながら自分たちの保護者たちは優しく酒臭い空間から送り出してくれた。俺たちは公園に行くことにした。
@@@
店から出て少し歩いたところにある大きな交差点。いくつもの信号が立ち並んでいる。下の方の鉄柱は錆びて赤茶けてボロボロになっている。この辺の人たちが危ないから立て直すよう市に申請している。しかも古いから見づらいこと見づらいこと……
「ねえ、どうするサッカーでもす・・」
ズンッ
「!」
いきなり地面が揺れた。この時の地震は後に氷庫県北部地震と呼ばれる。この地震による関西への影響は甚大だった。100万人程度の死傷者が出た。突き上げるような振動と全てを飲み込む怒濤の水流、津波。震央付近は壊滅状態に陥ったという。といっても自分達の住んでいたのは境市あたりだったのでそれほど揺れは強くなかった。だが…
グラッ…
「うわぁっ!」
そう、信号機が倒れてきたのだ。特に足元が腐食していた一本が自分たち二人に襲い掛かってきた。
ドシン!