コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 金曜日(ほとんど)に出る三題話!みんなで書くページ! ( No.5 )
- 日時: 2011/06/13 22:07
- 名前: 北野(仮名) (ID: upXvIKCB)
アイス、鏡、テスト
近年、不良潰しという噂が巷を飛び交っている。正体、そして名前も不明。唯一分かっていることは性別。女だということだ。しかもその目撃例はたった一度らしい。
「うぉい、黒田。俺の変わりにジュース買って来い」
とある高校、とある教室でおとなしそうな男子生徒が一人のガラの悪い青年に絡まれていた。チャラチャラとチェーンをベルトからポケットにかけて斜めにセットし、耳に開けた穴にピアスを付けている。指にはいくつかのリングをはめて髪は茶色に染めている。学ランのボタンは全部開かれ、口からはタバコの匂いがする。
「嫌だよ。頼むなら別の奴にして」
「あぁ?誰に口聞いてんだ?てめぇは」
「分かんないの?」
不良としか言い様の無い生徒がイラついている現状であろうとも手元でシャーペンをノートの上で走らせながら黒田と呼ばれた生徒は淡々と返した。そしてそれ以上喋ることなく今度は視界に教科書を入れた。それを見て絡んだはずの不良も半ば呆れてどこかに行ってしまった。
「勉強オタクが…」
授業のため、教室に入ってきた教師を押し退けて取り巻きと共にドアを蹴開けて出ていった。オドオドとしているその先生が授業を受けろと注意したその時にはもうその姿は廊下には無かった。
「にしてもリーダー、あいつウザイっすよね?」
先ほど哀れにも勉強中毒に無視されたグループの中でも下っぱの部類に位置する男は敬意を払うように変な敬語を使い、イライラする事件をぶり返した。
「本当だ。野郎どうしてやろうか」
怒りを喉の奥に無理矢理押し止まらせるようにして、興奮で上ずりそうになるのを抑えてそう言った。
バァンッ
「ちゃーっす」
いきなり校舎から屋上に出るための扉が轟音と共に開いた。一人の人間が両手で突き飛ばすようにして押し開けたのだ。上靴を律儀に履いてスニーカーを履くガラの悪い連中に歩み寄った。
「ジュース飲みてぇんだろ?買ってきてやるよ」
現われたのは黒田だった。さっき堂々と自分たちを無視した人間の登場で場の空気はすぐに変わった。
「どういうつもりだ?」
「宿題が終わった、ただそんだけの話だよ」
「残念だったな、俺たちゃもう飲み物はいらねーんだよ。どうしてもってんならアイスでも買ってこいよ」
「分かった。金出せ」
黒田は飄々としているが、首領格は内心はらわたが煮えくり返っていた。怒りを喉の奥に無理矢理押し止まらせるようにして、興奮で上ずりそうになるのを抑えてそう叫んだ。だが、金を出せと言われたとき、その意気はすぐに沈静された。なぜかは分からない。普段ならパシらせる奴に払わせるだろう。しかし、予想より、普段よりそれを切り出すタイミングが早かったせいか、普段と違う行動を取ってしまった。みんな自分の手元から財布を出し、200円ずつ出した。それを受け取ったのを確認した後、またドアを今度は引き開けて出ていった。
「一体何なんだあいつは」
行動が謎すぎる。わざわざ一度断ったパシリを自分から引き受けに来た。頭のおかしさに少し気味の悪さを感じた。
「あれ?なんでかな先客がいるねー」
黒田が開けたまま開きっぱなしになっている開き戸から新たに人々がやって来た。あの姿には見覚えがある。学校を締めている三年生の先輩方だ。腕力だけでなく知力も相当なもので前のトップを三人がかりで入学して2ヶ月でぶっ潰した武勇伝がある。
「ここは俺等の溜り場だ。ここに来るってこたぁ下に付くか潰されるかの二択」
指をパキパキと鳴らして、準備運動をするように上下動して、唾を足元に吐きつけてゆっくりと近づいてくる。タバコの類を一切やっていないので、身体能力も圧倒的に違う。唯一勝っている点としては人数だけだ。だったらそれを利用するしかない。人差し指を下に向けてくるりと小さく円を描いた。これは合図だ。意味は、「囲んでいくぞ」だ。その指示通り、一斉に立ち上がり、即座に周囲を取り囲んだ。
「あれ?第三の選択肢、俺等が潰されるパターン?」
かなりの大人数に囲まれているのにヘラヘラとニヤついている。こっちを完全に甘く見ているということだ。好都合、油断している今がチャンスだ。風を切って瞬時に駆け出した。敵が敵なので緊張で頬がピリピリする。瞬く間に間合いが詰められる。全方位から一斉に拳を繰り出す。シュッと鋭く空を貫き相手の顔に突き進んでいく。その悠々としている鼻を捕らえようとしたとき、異変は起きた。
ガンッ!
突如側頭部に衝撃が突き抜けた。自分の気力に反して膝はゆっくりと曲がっていく。不意に受けた衝撃により、ゆっくりと視界が霞む。瞼は重くなり、意識は朦朧としていく。右膝は垂直に曲がりきり、地に付いてしまった。倒れゆくその中、衝撃が放たれた方向を見た。そこには、赤い刺繍のようなものが施されている小さく白い至るところにありふれている球体が、ポーンポーンと跳ねていた。
「野…きゅ…うぼー…る」
不意打ちを加えた正体はなんと野球ボールだった。こんなものが偶然のタイミングに自分に飛んでくる訳が無い。薄れゆく意識の中、目をこらして投げられたであろう方向を見た。そこにいたのは暴力事件を起こして停学を喰らっていた野球部エース。エースが事件起こすとかどんなだよと思ったことを覚えている。
「ぐっ…くそぉっ」
今だに視界がぼやけている現状で吐き捨てるように呻き声を上げた。呟くために動かす唇さえも重たく感じる。脳震盪が起こっているのか、腕どころか指さえも、ピクリとも動かせそうに無い。
「そういやさっき誰か階段降りてたなー。あれは誰かなー?」
自分では思うように動かせない首を乱雑に髪を掴まれ無理矢理起こされた。毛根に激痛が走り、叫び声を上げようとしたが、小さくうぅっと口からこぼれ出るほどの弱々しいものが限界だった。
「く…ろだか?」
「へーぇ、黒田ってゆーのかー?鬱憤がこの程度じゃ晴れないからその子もボコっちゃお」
そう言って倒れている男のポケットからケータイを取り出した。
「黒田黒田…ってあれ!?無くね!?」
「当然だパシリの番号なんて知るかよ」
「そーだねー」
何やら身内で楽しそうに会話をしているが、殴られた方としてはたまったもんじゃない。自分と知り合いの情報の塊を取り返そうとしたそのとき、今度は腹に重撃が食い込んだ。さっきまでヘラヘラ笑っていた奴が真剣な顔つきで蹴りを入れたのだ。今度の一撃は迅速に意識を奪っていった。
「メモでも置いとくかねー。この前返ってきたテストの裏でいいや。体育館横集合っと」
そんな長ったらしい会話を最後まで聞く前に意識は完全に闇に沈んだ。