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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.117 )
日時: 2011/09/09 20:56
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: EVVPuNrM)
参照: 好きなのにー。

第百三十五話『恋の痛み』


皆が幸せになれる恋があれば、こんなに悩むこともないのに。






**


沈黙のまま、数分経過した。
たまに後ろを見れば、玄関の外で疾風と叶汰と優——。
そして、壱とその友達の沢木克己と永井晃が居る。


お願い、今だけは早く帰って——。
私の勝手な我儘だけど。
とにかく、ひたすらそれを願っていた。


「……あの、」
「!」


そこで、林田が口を開いた。
私は視線を林田に向ける。
林田は、ゆっくりとした口調でこう呟いた。


「……メールでいった通り……なんで、付き合ってください」






『——好きです』
怜緒に告白した時の私と、林田の姿が被って見えた。
私はジャージの裾を握りしめ、林田を見つめる。
逃げちゃ、駄目。
自分の気持ちを、しっかり言わなきゃ。
林田を、もっと傷つける。


林田には、私みたいに傷ついてほしくない。


「……気持ちは、嬉しいけど——……」
「……」
「——ごめん、なさい……」
「……うん……」


そんな顔されたら、胸が痛くなる。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私なんかを、好きになってくれてありがとう。
心の中で繰り返しながら、小さく唇を噛み締めた。


「……じゃあ……、友達に——」
「……うん」


友達なら、大歓迎だ。
付き合うことは、出来ないけれど——。
林田なら、きっと他にいい人が見つかる。
大丈夫。
由良と愛奈とも付き合ったことあるって聞いたし、林田の明るさならすぐに良い人が現れるよ。
そう呟くように笑みを浮かべ、私は頭を下げた。
そして、その場から去った。


「……っ」


——意味わかんない、私。
なんで、泣きそうになってるの?


「……依麻、お疲れ」
「……うん」


優が、笑顔で出迎えてくれた。
私は必死に涙を抑え、なるべく笑顔を作った。
外を見れば、壱と沢木と永井は居なくなっていた。
いつの間に、居なくなったのだろう。
ホッとしたけれど、少しだけ寂しく感じた。
なんだろう、本当……。
本当、私って我儘だよね。


「——どうだった?」


外に出ると、水道の所に寄り掛かっていた叶汰に話しかけられた。
横には、疾風と中条——って、なんか一人増えてません?


「水城、なんて言った?」


疾風は真剣な顔で、私にそう言った。
私は三人から目を逸らす。


「……断った」
「「「うぁーっ!!!!」」」
「!?」


三人とも、悔しそうな顔をして絶叫し始めた。
私は軽く驚きながらも、三人を見る。


「OKしろよ〜」
「……だって……」


私は、言葉を詰まらせた。
軽々しくOKなんて出来ないし、それに——……。


「——壱がいるから?」
「!?」


心の中で呟こうとした言葉を、叶汰に言われた。
叶汰、なんで知って……?


「……な、なんでっ!」
「好きなんでしょ? 壱が」
「な、なん、な、」
「——依麻、とりあえず中に入ろう」


パニック状態になっていると、優がそう言って背中を押してくれた。
優、ナイス。


「……ありがとう、優」
「ん」


優は短く返事をすると、自身のバッグを背負った。
私もジャンパーとバッグを持つ。


「じゃあ、帰ろうか」
「……うん」


まだ頭が、状況を飲み込めない。
胸が、少しだけ痛い。
誠には、返事を言わないで待たせて傷付けて——。
悪い事をしたって、思う。
こんな私に対して、勇気を振り絞ってしてくれた告白。
嫌な沈黙と、言葉を出すまでの緊張感。
その気持ちも、振られた痛みも、私は凄くわかる。
私も痛いくらい、失恋の苦い味を味わった。


でも——。
振る人も、振られる人も同じくらい辛くて。
苦しい、んだ。
また一つ、私は痛みの味を知った。


怜緒も私を振るとき、こんな感じだったのかな?
怜緒だけじゃない、私が告白してきた人達は——。
皆、こんな気持ちだったのかな?


怜緒も、やっぱり愛可が好きだから。
簡単に相手の告白を受け入れる訳には、いかない。
だから私は、四回も振られたんだろう。
そこまで愛可を一途に思える怜緒も怜緒で、ある意味凄いと思う。


私もやっぱり、壱が好きだ。
その気持ちは、揺るがない。
誰が何と言おうと、簡単にやめれる訳がない。
壱は二回ともタイミング悪く近くにいたけれど、もしかしたら私が林田に告白すると勘違いされたかもしれない。
壱は、私が壱の事を好きなのを知っている。
だから、もしかしたら『軽い奴』って思われたかもしれない。


私の好きな人は、壱だよ。
林田じゃない。
林田は、いい人だってわかってる。
だから林田は普通に好きだけど、それは恋として……じゃない。


「……はぁ」


私が壱じゃなくて、林田を好きになってたら、どうなってたのかな……?
なんで恋愛って、こんなに辛いんだろう。
誰一人傷つかないで、皆幸せになれる恋愛があればいいのに。


そうなれば、いいのに。

















五月六日。
恋の辛さが、改めて身に染みた。