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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β 37.【その差、10cm】更新! ( No.151 )
日時: 2011/10/06 20:28
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: rsOn.58k)
参照: 絶賛混乱週間←

第三十九話『勘違い≒期待』


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そして、あっという間に放課後。
なんだかあの話を聞いた後から、時間が経つのが早く感じた。
私は帰りの会の挨拶が終わると同時に、誰よりも早く教室を出る。
素早く廊下に出て、由良を女子トイレへと連れ込んだ。


傍から見れば、きっと変に思われただろう。
だけど私は、そんなの気にしない。
今は、由良の話だけが気になるのだ。


「由良、さっきのマジ?」
「マジマジ!!」
「どんな感じだったの?」


私は鼻息を荒くさせながら、由良を見つめる。
落ち着け、落ち着くんだ自分。


「なんかね、さっき言ったみたいに」
「うんうん!」
「健吾が壱に向かって『ほら、近くにいるぞ! そこにお前の——』っていった時に、すぐに壱が健吾の口塞いだ」
「え」
「それで壱が、『やめろよ〜』って笑いながら健吾をツンツンしてた」


由良が笑顔でそう言い、再び私は何も言えなくなった。
その時に、私と由良の後を追ってきたのか、優が現れた。


「——なに、壱のこと?」
「うん」
「あぁ、今日も給食中に依麻のこと見てたよ」
「ほらぁ依麻! キタべさ!!」


優の追い打ちで、私は更に何も言えなくなった。
由良だけが「キャーッ」と叫び、興奮し始める。


「ねぇ、優!! 壱さぁ、依麻のこと好きそうだよね?」
「うん」
「これ、両想いじゃーんっ!!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


そこで私は、初めて大声を発した。
その変な声は、女子トイレ中に木霊する。


もし、もし『両想い』だったら——。
そうだったら嬉しいけれど、現実はそんなに甘くはない。
そんなことある訳がないし、それに——。


「わかんないじゃん。健吾が差してるのは私じゃなくて、違う子かもしれないし——」


優香ちゃんかも、しれない。
優香ちゃん、壱の理想なタイプ。


壱にとって、クラスで一番マシな人。










——しかし由良は、こう即答した。


「それはない」
「え」
「間違いなくこっち向いてたし」
「じゃ、じゃあ愛奈か由良じゃない?」


現実だったら嬉しいけれど、でもこれが間違いだったら?
期待して傷つくのは、もう嫌だ。
だから私は、必死に『私な訳がない』を繰り返していた。


「それも違うよ。私と愛奈は座っていたけど、あの時依麻一人だけ立ってたじゃん」
「……あぁ……」


確かに、一人だけ立っていた。
愛奈は自分の席に座っていたし、由良はその前の志保ちゃんの席に座っていた。
私だけが立って、愛奈の肉球ストラップをひたすら触っていたのだ。


「視線が私と愛奈じゃなかったし、壱も座ってたじゃん? で、見上げるように見てたから——」
「……」
「そうなったら、立ってた依麻しかありえないでしょ。視線も依麻を見てたし」


由良が、珍しい力説をしている。
必死に必死に必死に『私な訳がない』と言い聞かせるが——。
由良の力説と目力が半端なくて、思わず息を呑んだ。


「……で、でもさぁ……。これで勘違いだったら、相当痛い子だよ私」


そうだ、これで勝手にいいだけ期待して。
期待していたくせに、これが勘違いだったら——。
何もかもが痛くなる。


「まぁ……。とりあえず、保留にしときな!!」
「え」


由良の言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
ほ、保留て……。
保留で、いいのか?


「——じゃあ、私部活行くから!! ばいばい〜」
「あ、あ、うん」


茫然としていると、由良が素早く去って行ってしまった。
私は由良の背中が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。


「……んじゃあ、依麻」
「あ、はい」
「玄関行くかぁ」
「……そだね」


私は優に引っ張られ、玄関へと向かった。