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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β 39.【勘違い≒期待】更新! ( No.164 )
日時: 2011/12/02 20:47
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: OS.29i1w)
参照: 放置してたよー。文章力が更に落ちた気がする。

第四十二話『お礼』


次の日——。
この日は、修学旅行前の制服点検集会と言うものがあった。
修学旅行は、五月十九日にある。
光葉中学校の中学三年生の生徒には、毎年恒例の集会であった。


そんな集会が終わり、椅子を持って廊下を歩いているとき——。


「——あ、そういえば私給食当番だった」


背の順番で並んでいた為、前に居た愛奈がそう言って突然止まりだした。
見れば私の前は給食当番の人達で埋め尽くされていて、歩行が困難になっている。
こ、これはどうすれば……っ!?


「ちょ、ちょ、ちょ」


私は変な声を上げながら、なんとか人ごみをかきわけていった。
私が戸惑っている間にも、身長の低い男子たちはどんどん前に進んでいき——……。


気が付けば、後ろの方に居る壱が横に居た。


「……っ」


こ、これはさりげなく隣を歩いて良いよね……?
私はゆっくりと歩みを進めた。
心臓がドキドキと音を立て、なんだか頭がふわふわな気分になった。
自然と、少し歩くのが早まってしまう。
その度に少し速度を落として、もう一度壱の隣を歩く——……というのを、何度か繰り返していた。


気が付けば、教室の前に着いていた。
ずっと俯いていた顔を上げ、私は足を止める。
教室の前には、私より先に歩いていたクラスメートたちが詰まっていた。
横に居た壱も足を止め、その後ろの人たちも教室の前が空くのを待っていた。


「……」


沈黙。
なんだか気まずい空気が走り、私は再び俯いた。
それとほぼ同時に教室の前は空いたが——……。
私は、足を動かさなかった。


先に、壱を行かせたかった。
ここは譲って、私は後からゆっくり教室に入ろう。
そう思っていた。


そう思っていたのに——。


「……?」


壱の足は、一向に進まない。
私は疑問に思い、顔を上げた。
壱は真っ直ぐに立ち止まり、動かない。


「——あれ、早く入らないのー?」


私の斜め後ろに居た優が、声を上げた。
しかし私も壱も動かないまま、その場に沈黙だけが走る。
こ、これはどうすれば——……?


私は慌てて壱を見た。
この時、多分私は驚きの表情に満ちていたと思う。
壱もこっちを向いて、数秒固まった。


「……先、行っていいよ」


その瞬間に響いた、鼓膜を揺らす壱の声。
低いけれど、少し甘くて優しい声。
間近で聞く壱の声は、嬉しいけれど——。


優 と 私 の ど っ ち に 言 っ た ?


今日の天気は、雨。
ただでさえ暗い廊下がもっと暗いのと、視力悪い為、壱の視線がどこを向いているのか——。
つまり、私と優のどっちに対して言っていたのかがわからなかった。


「え、あ、え」


私はパニックになり、椅子を左右に振り回した。
今思えば、凄く迷惑行為だったと思う。
しかし、そんな事考えてる暇はなかった。
思考が働かなかった。


「……え、先行っていいの?」


私がパニくっているうちに、優と壱は会話をしていた。
私の頭の中は更にパニックになる。
沈黙になってるし、後ろもつまってるし、どっちに言ったのかわかんないし——……っ!!


その瞬間、まるで頭の中がプツンと音を立てるように真っ白になった。


「あああ、あ、あり、ありがっとぉぉぉうっ!!!!」


私は野太い声で叫び、椅子を振り回しながら小走りで教室へ入った。
あまり覚えてないけど、この時多分、凄まじい顔な上に凄い変な発音で叫んでいたと思う。
私は自分の席に椅子を置いた後、小さく息を吐いた。


——……やっちまった。

「あぁぁぁぁぁ」


一気に後悔と自己嫌悪が襲ってきた。
何、今の野太い声に凄い顔に凄い変な発音!!
絶対キモイって思われた、『なんだこいつ』って思われた!!
頭を一気にぐしゃぐしゃにかき混ぜると、笑みを浮かべた優がこちらへと向かってきた。


「依麻〜、壱に譲ってやれよ」


優の一言。
その一言で、我に返った。


「あのね、私も壱に順番を譲ろうと思って待ってたんだよ!!」
「そうなの?」
「うん。だけどね、反対に壱が譲ってくれて頭がパニックになって……あぁぁぁぁぁ」


私は再び頭をかき混ぜ、変な声を上げた。
壱は優に譲ろうと思って立ち止まって言ったかも知れないのに。
勝手に私が受けとめちゃって、沈黙のタイミングで一人で変なお礼いいながら走り去ったり——。
一人で突っ走って、馬鹿みたいだ。
何してんだ、私は!!


あれで私が『いやいや、先に行っていいよ〜』って譲れば、会話続いたかも知れないし。
いや、でも結構後ろ詰まってたからね。
でもでもなんかさ、私図々しくない?


再び頭の中がパニックになると同時に、優は私をなだめるように肩に手を置いた。


「依麻、壱にお礼言ったの?」
「え、言ったよ」


言いましたとも。
もう思い出したくもない、あの変なお礼。


「……え、言ったの!?」
「うん、ありがとうって……」
「全然聞こえなかった」


どうたら優には、私の変なお礼がお礼に聞こえなかったみたいだ。
じゃあ壱にも聞こえてなかったってことじゃ——……。


——聞こえてたにしても、聞こえなかったにしても。
どっちにしても、虚しくなる私であった。