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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β 39.【勘違い≒期待】更新! ( No.178 )
日時: 2012/01/01 20:16
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: 1hluJEzQ)
参照: 徐々に復活していくぜ\(^0^)/

第四十五話『修学旅行二日目』


「逆」


次の日の朝、バスの中で発した第一声はこれだった。
昨夜泊まったホテルで買った、炭酸飲料を一口飲んで小さく溜息をつく。
それを横目で見ていた由良は、やがて私を視界から外して小さく笑った。


「今日は見事に逆だね」


そう、逆なのだ。
……なにが逆かって?
私は由良の見ている方向を辿り、もう一度溜息をついた。


由良の見ている方向。
私の隣。
隣には、私の好きな人!!
——ではなく、何故か健吾がいるのだ。
昨日まで壱が私の隣に居たのに、一体何があった?


そう思ったときに、前の席に居たクラスの女子が振り向いた。
目がバッチリと合うと、その女子は真顔で小さく首を傾げた。


「壱って昨日さ、依麻の隣じゃなかったっけ」
「隣だよ」
「でも今日隣じゃないよね」


前の席の子も、この状況を気づいていたみたいだ。
……そりゃあ、私の好きな人が壱っていうのはクラスの大半……いや、下手すれば全員が知っていることだしね。


「なんかわかんないけど……、代わったみたい」


それを告げた後に、私は頭の中で考えた。
昨日、壱の隣で大騒ぎしすぎたから?
テンションが上がり過ぎてた?
やっぱり、昨日のことは夢?


色んな事を考えてると、なんだか頭が重くなってきた。
バスが発車してしまったものは、もうしょうがない。
気を紛らわせようと由良の方を見ると、


「……ちょ、由良?」
「具合悪い、あぁぁぁぁ。依麻、ごめんちょっと寝かせて」


そ ん な の ア リ で す か
昨日のテンションはどこへ?
バスガイドの声をかき消すほどの元気はどこへいったの?
私はバスの背もたれに深く寄り掛かり、周りの空気を確認した。


な ん か 暗 い
なんなんだこの空気は。
しかも大半の人が寝てるってどういうこと。
まだ二日目だぜ? 修学旅行だぜ!?
テンション上がらないのかよ、みんなぁぁぁぁ!!


つまらん。
実につまらん。
つまらなさすぎる。


私は不機嫌になりつつ、静かなバスの空気の中で揺られ、早く目的地に着くことだけを祈っていた。


**


どれくらい、経ったのだろうか。


「——目的地に着いたので、各自荷物を持って降りてください」


バスガイドの声が車内に響き、私は時計を見た。
ちょうど、夕方の五時半——。
バスに揺られ揺られ揺られ続け、なんとか二日目の宿泊場所へとついた。
時が経つのが凄く遅かった気がする。
長時間乗っていたバスを降りて、地面に足をつけるとなんだか清々しい気分になった気がした。
夕方といっても、関西はまだまだ明るい。
北海道とは違う景色に、少しだけ見とれていた。


「——じゃあ、各自部屋へと向かって荷物を置いてください」


どこかでそんな声が聞こえ、私は我に返るように置いていた荷物を持った。
昨日より重たく感じる荷物にまた少しだけ溜息を洩らし、決められた部屋へと向かった。


**


部屋に荷物を置き、夕食時間もなんとか済ませ——。
大広場に集められ、学年ミーティングが始まろうとしていた。


「先生、これ何順?」
「来た順でいいから素早く並べー」


そんな先生と生徒の会話を聞いた後、私は適当に愛奈の後ろの席へ座ることにした。
ざわつく大広場の中、私は自然と壱の姿を目で探していた。
どうやら、彼はまだ来ていないようで。
もう少しでミーティング始まっちゃうじゃん、なんて思いながらも彼が来るのを待っていた。


今日は接点がなかった分、少しでも近くで彼の姿を見たかった。
彼の背中でもいいから、見つめていたい。


「——壱、遅いぞ〜」


そう思った瞬間に、ちょうど壱が来た。
壱は軽く戸惑いながらも、ほとんど座っている人の列を眺めて前へと向かった。
しかし、すぐにまたこちらへと戻ってくる。
そして、私の横へきて——……。


そのまま、腰を下ろした。


「おー、壱〜」


壱の前に座っている糸田が笑顔でそう言った。
壱はおう、と小さく返して前を向いた。
私は胸のドキドキを押さえながらも、この状況を整理していた。


待って、偶然だとしてもなんで私の隣?
愛奈の隣が糸田で、私の隣もちゃんといて——。
なのにその間に壱が入って、私の隣になって……。
え、待って。意味が解らない。


なんでわざわざ私の隣なの?
偶然? それとも——
間に入った壱は少し狭いのか、他の人より少し列がはみ出てて私の方へと近付いていた。
体を少し傾ければ、もう届く距離。
やばやばやばばばばばばば。


接点がなくてつまらなかった一日が、一気にドキドキの一日に変わった。
私は心臓の鼓動とどうにも出来ない感情を押さえつけて、少しの間だけのこの幸せをゆっくりと噛み締めていた。