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- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.197 )
- 日時: 2012/02/23 22:52
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: RshqcS9m)
第五十二話『昔と今の姿』
六月も半ばに入り、少しずつ蒸し暑い気候となっていくこの時期。
六月のメインイベントと言えば——?
「体育祭!! 今年こそは金賞狙うぞ!!」
福野がそう熱く叫んだ。
……そう、体育祭。
このシーズンは学校全体が燃え上がり、生徒より教師たちが熱心に体育祭へ向けて準備をし始める。
私はこの学校での体育祭は初めてなので、少しだけ胸をおどらせていた。
「明日から大縄の朝練入るからなー! 気合入れていけよ! 遅刻は厳禁だからな!!」
朝練という言葉を聞き、私のテンションは一気に沈んだ。
いや、だって、朝練って……えぇ?
遅刻魔の私には相当きつい。
朝が弱い私には、めちゃくちゃキツイ。きついっすよ!!
「福野も熱いよねー。なんか、うん」
「依麻だったら遅刻しそう」
私の所に来た由良と優は、笑みを浮かべながらそう言った。
「まぁ、めんどくさいけど頑張るかー。金賞取りたいしね」
「うんうん、頑張ろ」
二人はそう言い、廊下へと足を進めていった。
私もそれを追いかけるようについていき、廊下へと向かう。
「やっときたか、魚」
その声と共に、顔を上げる。
見れば、まなが仁王立ちして立っていた。
さ、魚だと……!?
「誰の事だい、それは」
「依麻の事だよ、魚」
ムキーッ!!
まなのその言葉が合図かのように、私はまなと掴み合う。
まなと絡む女子は、いつもこのように掴み合ってプロレスごっこみたいな事をする。
この間は優とまながやっていたし、その前は愛奈とまながやっていた。
「まなに何すんねん、魚ーっ」
「うごぁっ」
優が私の背中にパンチを入れ、私は奇声を上げた。
このおふざけパンチが、結構痛いもんだ。
プロレスごっこって、意外に男子より女子のが凄まじいんだよね……。
そんな事をふと思いながら優と掴み合っていると、視界の隅に壱の姿が見えた。
こっちみてた風に見えたけど、どっかいっちゃうよね。
そう思った瞬間、
「ねぇ、ねぇってば!!」
まなの声が、廊下中に響いた。
何だ? と思うが、ここで手を止めてしまえば優の痛い一撃を喰らってしまう。
そう思っていると、
「——ねぇ、壱!! 依麻を止めてあげて!!」
な ん で す と
会話が気になるけど、優の攻撃がくるから戦い続ける。
まな、何を言いだすんだ……!?
振り向きたい。
会話を聞きたい。
だけど振り向けない。
真剣に会話を聞けない。
頭の中でその四つの言葉が駆け巡る。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
優の攻撃が緩くなった隙を見て、壱の方を見る。
……って、壱いないし!!
今来た龍も、壱捜してるし……。
どこ行った!?
そう思いながらもう一度辺りを見回すと、壱が帰ってきていた。
あ、あれ? 瞬間移動?
「……ねぇ、壱!! 依麻を止めてあげて!!」
「……」
「シカト? ねぇ、シカトすんの!? 依麻を止めてあげてぇぇぇぇ」
まなは去っていく壱と龍の背中に向けて、大声で叫ぶ。
私はまなの華奢な肩を、むんずと掴んだ。
「ま な」
「……あ、依麻!! 今ね、壱いてね、話したよ!! 照れてたよ!!」
声色を低くしてまなの方を見つめると、まなが軽く慌てながらもそう言った。
突然の言葉に、私は少しだけ戸惑う。
「な、な、な」
「一から説明するから、ちゃんと聞いててよ?」
まなはそう言い、咳払いをした。
私は耳を傾け、しっかりとまなの話を聞いた。
*まなの再現*
「ねぇ、壱!! 依麻を止めてあげて!!」
まなはそう壱に向かって叫んだ。
そう、そこまではちゃんと聞いていた。
「……え、どうやって」
まなの叫びに対し、壱はだるそうながらも答えたそうだ。
それに対しまなは、笑みを浮かべて腕を伸ばす。
「普通にぐいって掴んで!!」
「……」
そのまなの言葉に、壱は無言で私の所へ向かった。
そして私の近くに来て、ややしばらく私の方見ていたのだ。
しかし——。
「……っ」
笑いながら、依麻の横を綺麗に通り過ぎて行った
そしてそのまま職員室方面へ——。
「……って、え!? 壱、近くに来たの!?」
「うん!! もうちょいだったのに〜……。ダメだね、壱は!!」
「……っ」
やばい。
この短時間の間に、こんなドキドキする話が隠れていたとは……。
「なんか壱ね、下向いて照れてたしめっちゃスマイルだった」
「え……?」
「スマイルってより、ニヤニヤって感じだったよね〜、うけるわ」
まなの言ってることが本当ならば——。
やばやばやば。
やばいって、これは。
「あいつ、やわらかくなったよね」
そこで、由良がそう呟いた。
え?
私は思わず、ここで聞き返した。
「壱、前はもっと怒りっぽかったっていうか……いっつもイライラしてたし。態度最悪だったもん、あいつ」
そういえば、優も言ってた。
『壱が変わった』って。
変わったって——。
どういうことなんだろう?
まだ壱と出会って一年も経っていない。
好きになって一年も経っていない。
私の知らない年月の壱は、一体どんな人だったのだろう。
私には知らない、壱の姿。
誰よりも好きだと言える自信はあるけど、そこの部分だけ皆には勝てないね。
だって、私は昔の壱を何も知らないんだもん。