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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β  ( No.205 )
日時: 2012/02/29 00:49
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: biELAV5.)
参照: 学年閉鎖いぇえええええああああ!!←

第五十五話『数分の間』


体育祭練習、文化祭係決め、そして——……。


……思えば、この日から私の周りで色々と動き始めたのかもしれない。


**


体育祭練習が無事に終わり、放課後がやってきた。
あぁ、今日も一日長かった……。
そう思いながら玄関へ向かおうとした瞬間、


「壱どこにいるの?」


弾けるように響く声。
振り向くと、私の腕をしっかりと掴んでいるまなさん。
……what?


「……え」
「壱もう帰っちゃった?」
「いや、教室にいると思われるけど……」
「よしっ!! じゃあ会いに行くぞ!!」
「えっ」


急 展 開


「依麻、ちゃんと壱に向かってばいばいって言いなさい!!」
「え、ちょ、無理無理無理無理」
「無理じゃないっ!!」
「え、えぇぇぇぇ?」


相変わらず力強いまな。
振りほどくにも振りほどけなくて、無理矢理引きずられる形になりながらも教室へとUターンすることになった。


**


教室の前に着き、まなが教室を見渡す。
私はほぼ硬直状態で、まなのことを見つめていた。


「依麻も壱探しなさい」
「……や、だって……」
「壱ーっ!!」


呼ぶなぁぁぁぁ!!!!
教室に居た人達が全員まなの方を振り返る。
ちょいちょいちょいちょい。
居ても経ってもいられない、顔から火が出る前に——。


「逃げるっ!!」
「……っちょ、依麻逃げるなー!!」


叫びながら止めようとするまなの手を避け、そのまま真っ直ぐにトイレへと直行した。
トイレは立て篭もるのに、最適な場所だ。
私は慌てて鍵を閉めて、上からまなが来ないかを見る。


「……っはぁ……」


……思わず、逃げてしまったけれど。
果たして本当によかったのか……?


「——依麻〜、どこだ〜」
「!?」


優の声が聞こえ、思わず頭を下げる。
な、なんなんだ……?


「魚〜、出てこい」


続いてまなの声が聞こえ、私は呆れたように小さく笑った。
魚はやめんしゃい、魚は。


「依麻、出てこいよー」
「出ておいで魚〜」
「出てこい〜」


優とまなは交互に私に呼びかける。
いくら呼ばれても、出ていくもんか。
そう思いながらドアに寄り掛かると、まなが大きなため息をついた。


「——……はぁ、出てこないならもう」
「はいはいはいこんにちはー!!」


とてつもなく嫌な予感がしたので、まなの言葉を遮り勢いよくドアを開けた。
人生でここまで勢いよくドアを開けたのは、今日が初めてかもしれない。
大きな音が響いた後、少しの沈黙が流れる。


その沈黙を破り、まなが発した一言。


「……よっ、魚」
「魚じゃないっす」
「いいから。ほら、行くよ」
「いやいやいや、行かない行かない」
「壱のとこじゃないから〜!!」


二人はそう言って、歩き出した。
な〜んか、信用出来ん。
そんな二人の背中を見送り、私は再びトイレへ立て篭もった。























しばらく立て篭もり、先程まで騒がしかった廊下が静かになっていることに気付いた。
トイレの鍵をゆっくりと開け、廊下に出ていくと誰もいない。


           
誰 も い な い ?



……うげっ!!
私は足を進め、慌てて玄関へと向かった。


**


滑り込むように玄関へ辿り着くと、笑みを浮かべた優とまなが居た。
私の事を見るなり、腕をつついてくる。


「依麻〜フゥッ」
「依麻よかったね」
「……何が?」


状況が理解できません。


「……あ、やっぱ可哀相だから言わないわ〜」
「ね〜」
「え」


可哀想、だと……?
私がトイレに立て篭もっている数分の間、何があった!?


「——依麻、嘘だって!! 明日壱におはようとばいばいって言いなよ」
「無理っす」
「無理じゃないって!! 壱本人に聞いたら『わかった』って言ってたよ」
「……え?」


話が読めません。


「だーかーらっ! 『依麻が明日おはようって行ってきたら、ちゃんと返す?』って聞いたら、『わかった』って言ってたんだって!!」
「え、そ、それ、一から詳しく」


私がトイレに立て篭もっていた数分の間。
起きた出来事を、一つ一つ丁寧に説明してもらった。


*まなの再現*


「——あ、壱ーっ! 龍ーっ!!」


私がトイレに居る間に玄関に居た優とまな。
その時にちょうど龍と壱が来た為、まなは壱を引っ張って二年生側の靴箱へと向かった。


「ね、依麻にゴム渡してくれた?」
「……渡した」
「本当に?」
「……誰かに渡してもらった」


壱は静かに、少しゆっくりとした口調でそう言ったらしい。
それにまなはキンキンと響く高い声を出し、壱に向かってこう叫んだ。


「壱から渡せやーっ!!」
「え、」


当然、それに対して壱は戸惑った反応。
……まぁ、普通の人なら壱と同じ反応をするだろう。


そこでまなは、壱に向かってある質問をした。

「……じゃあさぁ、壱! 明日、依麻がおはようとかばいばいって言ったら、ちゃんと返す?」
「えっ!? なんで——……」


壱は驚いた後、何か小さい声で呟いたが——。
まなの耳には、よく聴こえなかったらしい。


「とにかくーっ! ちゃんと返す?」
「……うん」
「じゃあ明日、依麻が壱に挨拶するから、ちゃんと返してよ?」
「……わかった」
「よしっ!! 絶対返してよ?」
「え、忘れてたらごめん」
「忘れたら壱の股間蹴るからなーっ」


まなが笑いながらそう脅しをかけると、壱は鼻で笑いながら去っていった……らしい。



















「……って訳っ!! 壱めっちゃ下向いてて、笑いながら照れてたよ」
「えぇぇぇぇ!?」
「だから依麻、明日頑張れ!!」


こ ん な の ア リ で す か ?
やっぱり一分一秒、生きていると何が起こるかわかったもんじゃない。
ちょっと目を離した隙に、私を置いて世界は回り続ける。
とんでもない事も起きたりも、する。


そんなこんだで水城依麻、


只今、大変な状況に陥っております。