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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β  ( No.213 )
日時: 2012/03/29 02:20
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: slzqu/cu)
参照: 開き直ろうずっ←

第五十六話『挨拶の手順』


生きてきた十五年の中で、男子とまともに挨拶したことなんかない。
自分から進んで「おはよう」なんか言ったことない。
ましてや、好きな人になんか尚更話しかけれない。


さて、水城依麻どうするべきか。
その日の夜、何度も壱の事を考えては眠れなかった。


そのせいあってか——……。


「依麻、早くーっ!!」


見事に朝練に寝坊しました。


「あわわわわ」


由良に大声で呼ばれ、私は小走りでクラスの方へ向かった。
クラスの人達はもう大縄を飛んでいる。
その中には壱もいて——……。
あ、あが、あががががが。


そこで練習が止まり、朝練終了。
慌ててきたけど意味なかったな、そんな事を思いながら歩き出す。
そこで優と、隣で練習していた一組の大群からまながやってきて、私の肩を掴んだ。


「挨拶しろ、依麻ー」


やっぱり覚えてるんですね、昨日の事。
眠れない中考えた答えは、『二人が忘れてることを祈る』だった。
でもこの二人が忘れてるはずなんかなくて。


「ちょちょちょ、無理」
「まぁ依麻遅れてきたしねぇ……。でも、帰りに壱にばいばいって言われる可能性高いよ」
「ひ?」
「昨日言ってたもん。『依麻が言わなかったら壱がばいばいって言ってくれる?』って聞いたら、ちゃんと『わかった』って言ってた」
「えええええ」


まなのその言葉に、私は変な声を上げた。
壱がそんな事言うはずない。
でも——……。


この言葉がきっかけで、私は授業中もずっと壱の事を考える事となった。


**


こういう日に限って、放課後が早く感じる。
とっても、とてつもなく嫌な予感がするんだ。
私は優とまなに見つからないようにそそくさと玄関へ向かおうとするが——……。


「……依麻、そこに壱居るよ」


まなの高い声が耳元で響き、私の動きは止まった。


嫌 な 予 感 的 中


「……ちょ、トイレいってくる!」


私は得意の逃げ技のトイレ攻撃を使い、走ってその場から逃げた。


「依麻ぁぁぁぁぁぁ」
「逃げるな依麻ぁぁぁ」


すぐ後ろからまなと優の声が聞こえてくる。
逃げるのバレたぁぁぁ!!!!
トイレに入り鍵を閉めようとしたところで、優が私の腕を掴みあげた。


「ほら、壱が待ってるよーっ」


待 て


「ほら、行くよーっ」


待て待て待て待て待て。


「いや、ちょ、な、ど、」


まなと優は、私を引っ張りながら走った。
その瞬間、いつの間にやらか前に居た壱と龍らしき人とその他友達が走って逃げていく。
明らか、私の事避けてるよね!?
逃げてるよね!?
逃げられてるからもうやめてくれぇえぇ!!


そんな叫びも虚しく、玄関に到着。
壱に追いつくことができ、まなと優は私の背中を押す。
同時に、少し息を乱した壱は振り向いた。7


やばいって、これ。


「壱ーっ」


まなは壱に近づき、壱のジャージの裾を引っ張った。
壱は軽く目を見開き、戸惑いの表情をこちらに向ける。


「え、な、なに?」
「ほら、壱! ちゃんとこっち向けーっ!」


まなが無理矢理壱を引っ張り、私の方へと向かって押し付けた。
ちょ、ちょ!!


「ほら依麻、言えーっ」
「え、ちょ、な、む、」


無理ですよ、先輩。
そう思ってる間にも、押し付けられている壱が私の方へと近づいてくる。
ひゃあああああ!!


「……もー、じゃあ壱が言えー」
「え、な、なんで、」
「いーからっ」
「や、えぇ……? む、無理、無理だし!」
「いーからっ!!」


まなが戸惑う壱を思い切り突き飛ばし、壱がよろけた。
壱が顔を上げ、私と目が合う。
壱と向き合う状態になり、私の心拍数は一気に上がった。



やばいやばい。
顔が、目が、なんかキリッてかっこいいやばい。
目が合い続けていると、壱は笑みを浮かべてくれた。
壱の笑顔をこんな近くで見れるとは……っ!!
まなに感謝、まなに感謝だけど恥ずかしい!!


そう思ってると、壱は手で口を抑えて小さく俯いた。
出たぁ、漫画仕草っ!!


「……っ」


そこで壱は俯き、逃走。
……え。


「ちょ、待て壱ーっ」


まなは素早く私の手を取り、そのまま壱を追いかけた。
すぐに追いかけたお陰なのか、案外てこずらずに再び壱を捕獲。
まなは私から手を離し、壱をしっかりと掴んだ。


「や、な、なんだよ」
「ちゃんと言えーっ」


壱は軽く抵抗し、まなは軽く振り回されながらも大きな声を出す。
私の脳内は一気にパニックになった。
壱が近くに居る、まなが大声、挨拶、仕草……。


ぷつん。
脳内で、そんな音が響いた気がした。



「あ、あぎゃぎゃぎゃ」


私は壱の前と言うことを忘れ、奇声を上げた。
パニックになって、再びその場から逃げる。
近くに曲がり角があったのでそこに隠れて立ち止まり、私は壱の視界から消えた。


「依麻ぁぁぁぁぁぁ」


まなの叫び声が、廊下中に響く。
でもそれに負けない位、心臓の音がハンパない。


どうしよう……。
帰りたくても、カバンは教室だ。
あぁ、こういう時に限って……バカだ。


帰りたくても、帰れない。
逃げたくても、逃げれない。


水城依麻、絶体絶命のピンチです。