コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.236 )
- 日時: 2012/04/28 13:22
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: k1qI710b)
- 参照: らんらんらん
第六十六話『残聴』
中学三年生は、部活は今週末で引退だ。
そんな三年生の為の部活の大会があり、学校が三日間休みになった。
その三日間の休みの間、私は壱のことばっかり考えていた。
あー。
好き、好き。大好き。
気持ちは溢れるばかりで、
私は弱虫のまんま。
そんな自分を変えたいのと、このままぐだぐだしているのが嫌なのもあって。
『夏休み前に、告白しよう』
それが、その決断へと結びついたのだ。
そうと決まれば、明日から。
明日から、私にとっては勝負期間だ。
**
決断の次の日から再び学校が始まり、また退屈な毎日が始まった。
だけど、大きな決断をしたせいか、なんだか心は少しだけ軽い。
放課後に優と居残り課題をサボり、由良を探す為に優と一緒に静かな廊下を歩いていた。
優と空き教室の前を通ると、なんだか急に騒がしい声が聞こえた。
「……あれ」
空き教室を軽く覗いてみると、見慣れた姿が見えた。
あれって——……龍じゃん。
もしかして放課後課題?
……ドキドキと共に、嫌な予感がした。
龍がいる、という事は——……。
そんな思考と共に、優は豪快にドアを開けた。
空き教室は、一気に静まり返る。
「……あ、依麻。壱いるよ」
優は小声で私に向かってそう言った。
や っ ぱ り
「ゆ、優! いいから!」
「あ、由良もいるじゃん」
「ちょぉぉお」
優はずかずかと空き教室の中へ入って行った。
私は戸惑いながらも、その場で動けず優の背中を見つめていた。
こればっかりは、ストーカーだと思われたら困る。
そう思いながらも、昨日変わるって決めたんだよね……。
深く深呼吸をして覚悟を決める。
「……えいやっ」
小さく掛け声をあげると共に、教室に入る。
辺りを見回せば、由良が四組メンバーと集まって大声で話している。
壱と龍は静かに過ごしていて、福野から出された課題をやっていた。
……な、なんか気まずい。
「……ネェ、優。ソろソろ外行カない?」
「え?」
「外、イ、行コーよ」
おかしいぐらいのロボット口調に、震える声。
そしておかしくなる動作。
横をチラリと見れば、口に手を当てて控え目に爽やかに笑う壱の横顔。
それで私の思考回路は、ショート寸前だった。
居残り、サボらないでやればよかった……!!
「……まぁ、先生に見つかったらめんどくさいしね。じゃあ由良、あとでまた来るわ」
優はそう言い、ドアの方へ向かう。
私も後を追い、そそくさとその場から脱出した。
そんな、数十分後。
「そろそろ、もっかい由良のとこ行くか」
「え」
優がそう言いだし、再び空き教室へと向かった。
優ぅぅぅぅぅ!!
私は絶叫したくなる気持ちを堪え、前にいる優を見つめる。
優はおかまいなしに、歩き出した。
壱に会いたいけど、気まずい。
だけど、さっきも入ったしなぁ……。
だいたい、怯えてても何もならないよね。
決断はどこへ行ったんだ、水城依麻!
私は自分に喝を入れ、優の後をついて行った。
**
空き教室の前に着き、私はドアの前で数秒立ち止まって深呼吸。
「バイバーイ」
明るく元気な、由良の声が聞こえてくる。
よし、入ろう!
「っ!?」
……とした瞬間に、ドアから壱が出てきた。
その時の壱の顔は、少しニヤけてる感じに見えた。
その表情を見て、一瞬ドキッとする。
そのまま私は壱と反対方向に足を進め、ドアに入った。
すると、中に居た由良が笑顔で私を迎えてくれる。
「お、依麻登場ー」
「や、やぁ」
「ねぇ、依麻ー。他の男子にバイバイってしたら浮気になる?」
「え」
先程聞こえた、由良の『バイバイ』。
どうやら由良は、壱にバイバイしたみたいだ。
だから壱はニヤけてた?
壱は由良に『バイバイ』って返したの?
あの少しだるそうな低い声で。
だけど甘くて、優しくて——。
あの時みたいに、由良にも『バイバイ』ってしたの?
「……」
——『ばいばい』。
まだ耳に残ってる、あの日の壱の声。
私にとっては貴重な出来事だけど、
私だけが特別じゃないのは、知ってる。
私はただの片想いで、
壱はまなに言われて、私に言っただけ。
そう、それだけのこと。
だけど——。
こんなにも胸が締め付けられるなんて、想ってもいなかった。