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Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β  ( No.243 )
日時: 2012/04/30 21:51
名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: TkB1Kk0e)
参照: 完結までもうちょいでっせ

第六十九話『There's no turning back now.』


もう、後戻りはできない。


「壱、お前なんで昨日帰ったのよー!!」


決戦の日。
朝から響く、龍の声。


「え、あ、ごめん」
「昨日やったの?」
「や——……」


龍に対し、壱が小声で何かを呟いた。
龍はそれをスルーし、壱を睨む。


「俺掃除点検だったんだよーっ!! 待ってろよ馬鹿やろー!!」
「あぁ……、ごめん」


荒ぶる龍に対し、壱はいたって冷静。
その時に、軽く目が合った。
今の時点で、心臓がやばい。


だけど頑張らなきゃ。
明日終業式なんだから、今日しかチャンスはない。


今日言わなきゃいつ言うんだ、私。


**


昨日と同様、あっという間に放課後が来る。
今日は叶汰に愛奈、優と由良にも協力してもらうことになった。
昨日は動けずにいたけど、今日は動いて見せる。


教室の隅で黙っていると、テニス部メンツが現れた。
そして教室に居る龍の方へ向かい、叫ぶ。


「あーれ、壱はー?」
「壱は今日……説教!!」


え……。
壱、説教なんかないのに。
もしかして、龍——……。


「んじゃ龍は、一緒に帰れる?」
「俺も今日は居残り〜」
「まじかよ、わかった! じゃあなー」
「じゃあな」


気を使ってくれた?
そう悟るのと同時に、龍と目が合いかける。
なんだか嬉しくて、少しだけ恥ずかしくて。
私は龍から目を逸らした。


と、その時。


「依麻、早く行きな!!」


息を乱した由良が現れ、私の肩を掴んだ。
私は状況が読めず、目を見開く。


「え、」
「壱に「依麻が呼んでる」って言ったよ! そしたら、「わかった」っつってた」
「え」


さすが由良さん。
行動が早い。


「だから、早く行って待ってな」
「どどどこに」
「東階段!! 愛奈が見守ってるから、行きな」


由良にそう言われ、背中を押された。
足が進むのと同時に「これから私は告白するんだ」と言う実感がわいた。
実感がわくと、なんだか一気に緊張が高まった。


**


東階段に着くと、愛奈が居た。
東階段は人が少なく、大きな窓から日差しが入るので、告白の雰囲気にはピッタリな場所だ。
まぁ、なんてよくある展開メルヘンな場所でしょう。


そう思っていると、


「……あ、依麻。壱来てるよ」
「ウギィッ!! え、ど、どうしよう」
「とりあえず私、上いくよ!?」


愛奈は慌てて階段を上り、隠れる。
私はどうしようどうしよう、と一気に焦りだす。
いざ告白ってなると、やっぱり緊張が半端ない。
そういえば、告白するのなんていつぶりだろう……。


脳内でそう考えるのと同時に、静かな廊下に響く足音が近づいてくる。
そのままどんどん足音が大きくなって——……。


やがて、止まった。


「……っ」


心臓の音が、大きく跳ねる。
ゆっくりと振り返ると、壱が顔を覗かせた。


「……」


沈 黙
やばい、やばいってこれは。
来てくれたことに嬉しくなり、だけど何から話せばいいのか戸惑い……。
黙ったまま壱の顔を見つめると、壱が軽く笑みを浮かべた。



ちょ……っ!!
告う前にそんな笑顔見せられたら……っ!!


「……ふふっ、」


緊張と気まずさと嬉しさが混ざって、思わず私も笑みが零れる。
壱も笑みを浮かべてくれた。


「あはは……」


今なら、壱の目をしっかり見れる。
今なら壱も、私の目をちゃんと見てくれる。


「——……で、話って……」


初めに口を開いたのは、意外にも壱だった。
低いけれど、甘い声。
愛しい声が、すぐ傍で響いている。


今、この東階段で壱と二人っきりなんだ。
今、この大好きな声を目の前で聞けるのは、私しかいない。
今、誰にも邪魔なんてされない。


今、壱はちゃんと私に向き合ってくれている。



「——あのさ、」
「……うん」


ここまで言えたなら、今しかない。


「……好き、なんだけど……っ」
「……っ」


伝えたかった、言葉。
緊張しながらも壱を見ると、壱は笑いながら俯いた。


「……つ……、付き合って……く、くれますかぁっ!?」


やっと大事な事を言えたのはいいものの。
声、裏返ったし!!
しかも「下さい」のつもりが「くれますか」になっちゃったし!!


言えた達成感と小さな後悔が、頭の中を駆け巡った。