コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.25 )
- 日時: 2011/07/20 21:55
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: b/ePXT6o)
- 参照: (゜Д゜)決戦は明日だ!
第四話『曖昧地点』
所詮、私は動けない臆病者。
次の日。
今日は席替えの為に、班長が決めた新しい班で集まっていた。
どこのクラスも学活なので、少し教室は騒がしい。
「……」
そんな中。
班に仲いい人もいないし、ほとんど話したことのない人ばかり。
私は完全に班に溶け込めない状況になっていた。
なので、違う班——……。
壱の姿を、目で探していた。
「——あ、」
思わず声が漏れる。
黒い学ランに、そこから少し見える赤いベルト。
ワックスで少しだけ立てている、その髪の毛。
身長が私より高くて、スタイルがいいけれどやっぱ男の子の体。
——壱だ。
壱の姿を見つける事が出来て、私の胸は少しだけ高鳴った。
しかし、
「……志保、席借りるから」
私の大好きなその声で、壱は志保ちゃんの席に手をかけた。
「あぁ、はいよー」
志保ちゃんは笑みを浮かべ、壱の顔を見た。
……壱、志保ちゃんの事名前で呼ぶんだ。
壱が女の子を下の名前で呼ぶなんて初めて聞いた。
小学校が一緒だった優でさえも『宮田』。
由良は『里田由良』。
そして私は——……『三上って人』?
なんで志保ちゃんだけ?
志保ちゃんだけ、下の名前で呼ぶの?
一気に胸の奥が熱くなる感覚がして、少しだけ胸が締め付けられる。
私も、名前で呼ばれたいよ。
苗字じゃなくて、ちゃんと下の名前で。
あの優しくて甘い、低い声で。
私の大好きな声と笑顔で、『依麻』って呼んで欲しいよ。
**
「壱ー、野菜の数足りないって言ってんだけど」
時間が経ち、給食準備時間。
福田が鋭い目つきで壱の方を見て、腕を組んでいた。
ちょうど壱は給食当番で野菜担当だったので、福野に目をつけられたみたいだ。
「……え、あ」
「どうなのよ」
壱は戸惑いながら辺りを見渡す。
福野は詰め寄るように、相変わらずの目つきで壱に近づいた。
壱は少しだけ俯き、口を開いて——。
「……いれ杉田ゲンイン」
こう言った。
「……は?」
「いれすぎたのが原因、です」
いれ杉田ゲンインって誰だ。
私は心の中で笑いを堪え、壱の方を見る。
壱は福野に睨まれ続けながら、慌てて足りない分の野菜をお皿に盛りつけていた。
**
「君のダーリン不機嫌だよ」
給食を食べ終わり、片付けている最中。
後ろに並んでいた由良が、お皿を持っていない方の手で私の肩を叩いた。
「ダーリンって、ちょ」
「むふ」
「え、なんで不機嫌なの?」
「……えっとねー。なんかぁ〜、野菜のことで福野にずっと嫌味言われてたじゃん〜?」
由良はいつもより語尾を伸ばしながら、そう言った。
……確かに、給食時間中も福野に何か言われてたなぁ……。
特に気にしてなかったけど、原因はそれだったんだ。
「だからね、壱に野菜あげるから機嫌直せーっつったんだけど……。『いや、いい』って感じでさ。全っ然機嫌直らないのさ」
「へぇ……」
私は納得しながら、小さく頷いた。
教室を見渡すが、壱は給食当番なので今教室に居ないみたいだ。
「——だからさ、依麻が慰めて来なよ」
「はい?」
突然の由良の言葉に、私は目を点にして呟いた。
……何がどうしてこうなった?
「大丈夫、依麻パワーで元気になるさっ!!」
由良は笑みを浮かべ、自信満々に呟いた。
え、依麻パワーってなんじゃ……。
「私が慰めたら、もっと機嫌悪くなるに決まってるしょ〜!」
私は笑みを浮かべ、そう冗談混じりに呟いた。
そう、最初は冗談混じりだった……のに。
自分自身で発した言葉が、とても胸を締め付けた。
私は彼女の訳じゃない。
壱にとっては『普通』の存在。
好きでもなく、嫌いでもない中間の曖昧地点の距離。
そう考えると、なんだか凄く切なくなった。