コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.41 )
- 日時: 2011/07/24 21:20
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: HpE/sQXo)
- 参照: こんな人生寂しいです(by.BadBye
第八話『My Heart』
放課後。
今週いっぱい掃除当番だった私は、黒板消しを両手に立ち尽くしていた。
「……二刀流、」
私は黒板消しを構え、黒板に向かって思い切り押し付けた。
少しだけ白い粉が舞う。
「おりょりょりょりょりょ」
そこで一気に素早く手を動かし、黒板に書かれている文字を消していった。
黒板は、一気に白くなっていく。
「……何やってんの、依麻」
横でそれを見ていた由良は、呆れ顔でそう呟いた。
私は黒板消しを持ったまま、ゆっくりと振り返る。
「二刀流」
「めっちゃ雑じゃん」
「でもスッキリするよ」
そう、スッキリするんだ。
この『二刀流』で思いっきり黒板を消すと、なんだか少し心が晴れる。
私の心の中のモヤモヤまで、綺麗に消されてるみたいで。
「ちゃんと掃除しないと、同じ班の乙葉に怒られるよ〜」
「それは嫌だ」
「まぁ、頑張って!」
由良は私の肩を叩いた後、笑顔で教室を出て行った。
残された私は、黒板消しの裏を見た。
白、赤、黄色、青——……。
色んな色の粉が、見事に混ざり合っていた。
「……えっと、クリーナー……」
私は辺りを見渡して、黒板消しクリーナーの元へ向かう。
コンセントが抜けていたので、それを持ち上げてプラグに装着しようと顔を上げた時——……。
壱の姿が、目に入った。
「壱、待ってて」
「ん」
壱は肩にスクバをかけ、目の前の零に向かってだるそうに返事をした。
零は壱のスクバに目を落とし、それからまた壱の方へ視線を向ける。
「今日、テニス行くなら——」
零にしては珍しい、部長っぽい言葉。
普段、零は部長っぽくない言動してるからねぇ……。
そう思いながら、プラグにコンセントを差し込んだ。
今日は壱、部活あるんだな。
そう思いながら——。
「——じゃあ壱、掃除手伝って」
「んー」
今度はテニスとは関係ない、掃除の話題になった。
零の頼みに壱は、再びだるそうな返事をする。
そしてそのまま壁の方に向かい、肩にかけていたスクバを置いた。
壱が掃除手伝ってくれるですと……っ!?
掃除時間の時まで壱が見れるなんて、ナイス零!!
……って、こんなことを思うなんて——。
私、全然距離置く気ないよね。
そんな軽い自己嫌悪に襲われながら、黒板消しクリーナーのスイッチを入れた。
**
「——これで掃除を終わりまーす」
掃除終了の反省会。
班長の乙葉の声と共に、皆一斉に散らばった。
「お疲れー。依麻」
「お疲れ〜」
由良は笑みを浮かべながら顔を覗かせ、そう言った。
そして私の元へゆっくり歩み寄り、顔の前で手を合わせる。
「掃除終わりで悪いんだけどさー。今度は、私の用事が終わるまで待っててくれない?」
「うん、いいよ」
どうせ暇だし、由良も私が掃除終わるのを待っててくれたし。
私は頷いた後、壁に寄り掛かる。
由良は「ありがと!」と言った後、背中を向けて走って行った。
それを見届けるのと同時に、
「!」
壱が動き出す。
こ、こっちくる……っ!?
私は思わず、壱の方に背中を向けてしまった。
壱は静かに、私の横を通り過ぎる。
「……」
壱が去った後、再び前を向いた。
自分から背中を向けて見ないようにしたのに……。
なんだか、胸が寂しい。
振り返って廊下を見ても、もう壱は居ない。
……もう、居る訳ないか……。
壱、歩くの早いな。
そう思ってると、
「!?」
もう居ないと思っていたはずの壱が、廊下を通り過ぎた。
ちょうど廊下を見ていた私と、ちょうどこっちを見た壱は軽く目が合う。
あれ、そっちに居たの!?
居ないと思っていたのに居た驚きとドキドキが交差し、また壱から目を逸らしてしまう。
それと同時に壱も逸らし、真っ直ぐ歩いて行った。
「……」
今度は、壱の背中をずっと見つめた。
一目で目立つ赤茶色のジャンパー。
ポケットに手を入れて歩く姿。
華奢でスタイルがいいけど、やっぱり男の子の体をしていて。
こんな遠くから見つめる片想いなんかじゃなくて、もっと近づいて——。
いつか、君の隣でその背中を見つめたいと思った。
——あぁ、私、やっぱり距離置くつもりなんか更々ないんだ。
壱が好きなのは、紛れもない事実。
もう、自分の心に嘘をつきたくないんだ。