コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.42 )
- 日時: 2011/07/24 22:30
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: pkkudMAq)
- 参照: こんな人生寂しいです(by.BadBye
第九話『決断』
その日の夜、私はベッドの中で何度も考えた。
何度も自分の心に問いかける。
『これでいいのか?』と。
でも私は、後悔なんてしたくない。
この決断が、後悔だとは思わない。
壱を諦めて自分の心を傷つけるよりも、壱を想って自分の心を傷つけた方が——きっと、後悔しない。
それならば、私は諦めたりしない。
自分の心にもう、嘘ついたりしない。
見れば、時計の短針と長針は、もう0時を廻る。
日付が変わると同時に、決断を出した。
悩んで悩んで、決めた事。
ずっと貴方を、好きでいる。
**
次の日——。
私は寝不足気味で重たい瞼を擦りながら、とある列に並んでいた。
周りの女子は年に一度配られる紙を見つめながら、騒いでいる。
そう、今日は年に一度——。
女の子としては重要でもあるようなイベント、三計測の日だ。
身長、体重、座高。
この三つを調べ終わった後の女子は、必ず持って騒ぎ出す。
それは、刹那の女子にも光葉の女子にも言える——……いや、女の子ならありがちな光景だろう。
「去年より二センチ伸びたー!」とか、「去年より痩せた!」とか言い合いながら、友達と教え合いっこする。
そんな光景を、私は小学生の頃から見てきた。
「——依麻、健康カード見せてー」
「はい」
もちろん、私も一応女子だ。
周りの女の子たちと同じく、教え合ったりして騒ぐ。
由良達に見せてと言われれば、隠したりはせずに素直に見せる。
小学校低学年まで、それを恥ずかしがっていた記憶はあるが——。
今となっちゃあ、どうでもいい。
自分が周りの女子より重いのも知ってるし、身長が俗にいう『チビ』なのも知っている。
隠しても仕方がない事実だし……虚しいけど、仕方がないのだ。
周りの子が皆スタイルがよくても、うん、仕方がない……のだ。
私はそう自分に言い聞かせながら、教室へ戻る。
教室では、男子が視力検査をやっていた。
女子は三計測の前に視力検査をしたので、後は男子が終わるのを待つだけであった。
視力も三計測も壊滅的な結果の私は、健康カードから目を逸らしてドアに寄り掛かりながら男子の視力検査を見ていた。
——今、「は行」だから壱は終わっちゃったか……。
そういえば、壱はどこにいるんだろう。
そう思い、壱を探す。
ほとんどの人は自分の席についているので、普段の壱の席に視線を移してみた。
しかし、優香ちゃんの隣……壱の席には、誰もいない。
疑問に思い、視線をぐるりと一周してみる。
すると、壱の姿を発見することが出来た。
「……」
私はそれを見て、茫然と立ち尽くした。
壱は、私の隣——……。
犬ちゃんの席に座っていた。
なんで犬ちゃんの席……?
そう思いながら壱の方を見ていると、気付いた壱がこっちを向いた。
目が合った為、私は慌てて逸らす。
私の筆箱、壱の近くに置いてあるし、壱も宇宙人触ったのかな……。
目を逸らしてから、ふとそう思った。
宇宙人とは、私の筆箱についている柔らかいキーホルダーだ。
隣の席の犬ちゃんもお気に入りで、よく『気持ちいいっすね、これ』と笑みを浮かべながら触っている。
女子には『感触キモイ』などと言われるが、なかなか好評なキーホルダーだ。
だから、きっと壱も触っていたら——……。
『うわっ、何これ』とか、『え、うわっ! ぷにぷにしてる!』とか、絶対言うはずだ。
何故だかよくわからないが、壱のリアクションが想像出来る。
やばい、壱とぷにぷに相性抜群。
「——じゃあ、席戻ってー」
色々妄想しているうちに、視力検査が終わったみたいだ。
福野の声が耳に入り、私は自分の席へと向かった。
が——……。
「……」
私の座れる通路の道が、塞がってて戻れない……っ!
目の前に自分の机があるのに、椅子に座れる隙間がないというもどかしい状況。
横を見れば、壱はまだ犬ちゃんの席にいるし。
犬ちゃん、壱の膝の上に乗ってるし。
今座ったら壱と隣になって近いし、なんか図々しいよね。
でも座らなかったら座らなかったで、なんかおかしいよね。
ていうかそれ以前に、通路塞がってて座れないよね。
さぁ、水城依麻はどうする!?
そう思いながらその場で困っていると、壱が立ち上がった。
そして私の横をすれ違い、その場から去っていく。
少しだけ鼻を掠める、爽やかだけど少し甘い匂い。
「……っ」
私は思わずその場で硬直し、ただ自分の席を見つめていた。
な、なに今の匂い……っ!!
壱、いい匂いすぎる……!!
座れないパニックと、不意に香る彼の匂いが頭の中を混乱させた。
「?」
そんな私の様子に気づいたのか、犬ちゃんは顔上げた。
数秒目が合い、犬ちゃんはあどけない顔で首を傾げている。
「……っあ、え、えと! ちょっとそっちに行ってもらってもいいかな……?」
頭がパニックになりながら咄嗟に出た言葉は、これだった。
とにかく、自分の席に座れないと話にならない。
戸惑いながら言う私の顔を見つめたまま、犬ちゃんは数秒目を丸くしていた。
しばらくして、私が座れないという状況がわかったのか——。
「…………え、あ! すいませんー」
慌てて通路を作ってくれた。
よし、これで座れる!
私は軽く頭を下げて、自分の椅子に腰を下ろした。
「……」
……あー、もう……。
ドキドキが、やばいし。
私は自身の熱い頬を抑え、誰にも悟られないように顔を隠した。