コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.58 )
- 日時: 2011/07/30 16:50
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: ar61Jzkp)
- 参照: こんな人生寂しいです(by.BadBye
第十六話『第一希望』
次の日——。
「何で壱そこに座ってるのよ〜」
朝読書の時、一人の男子が壱に向かってそう言った。
壱はと言えば、自分の席じゃなくて前に居る図書委員の横に座っている。
いつもあそこに座るのは、図書委員の男子一人で充分なんだけど——……。
本当に、なんで壱はあそこに居るんだろう。
疑問に思いながらも、本を読むふりをして壱を見てみた。
「……」
窓から入り込む日差しが壱の姿を照らしていた。
その光で、壱の髪が茶色く透けて見える。
——なんだか、すごく綺麗。
本を読むのを忘れ、壱の方を見つめてしまう。
するとそれに気づいたのか、壱もこっちを見たので慌てて本に視線を移した。
危ない危ない……。
だけど、茶髪の壱もかっこいいかも。
黒髪も茶髪も似合うなんて、さすが。
なんて思うと、少しだけ胸がドキドキした。
**
「——壱、高校の第一希望どこ?」
休み時間。
男子たちが集まって、進路の話をしていた。
そうだ、私達は中学三年生。
一応、世間で言う『受験生』なのだ。
このクラスの人々は真面目で頭がいい人ばかりなので、ほとんどが頭のいい所へ行く。
何せ、この街のブランドでもある高校だとか……。
私は頭がよくないし、ブランドなんてどうでもいい。
てか、高校ブランドってなんやねん。
受験が落ちるのも嫌だし、街で二校しかないうちの一つ——……鬼陽高校。
私はそこへ行こうと思っている。
不良ばっかりで荒れてると有名だが——……。
自転車で行けるし、制服も可愛いし、余裕で受かる為にはここしかないのだ。
まぁ、そんな感じで——。
壱がどこへ行くのか私も知りたかったし、耳を傾けてみた。
「——鬼陽」
壱が小さく呟いた。
……今、鬼陽って言ったよね!?
よっしゃ、一緒!
絶対鬼陽受けよう、頑張ろう!!
私の中で、高校へ行くためのやる気がパワーアップした。
そんな時、
「——今日の給食のカップちょーだいっ」
突然犬ちゃんが話しかけてきた。
私は顔を上げ、犬ちゃんを見る。
犬ちゃんは人懐こい笑みを浮かべて、尻尾を振っていた。
「今日のカップ何?」
「んーっとね、スパゲッティー」
スパゲッティーかぁ……。
好きな食べ物でもあるが、学校ではなんとなくスパゲッティーを食べたくなかった。
口の周りにソースがついてるのを壱に見られたら、生きていけん。
「……あー、いいよ。あげる!」
「まじで? やったぁー!!」
私も笑みを返してそう言うと、犬ちゃんは大喜びで飛び跳ね始める。
わ、わんこが居る……っ!!
犬にしか見えないその仕草は、私の心をくすぐった。
頭撫でたい、尻尾触りたい、お手させたい……っ!!
「——犬ちゃん、ナンパしてる」
その低い声で、私は我に返った。
ナ、ナンパ!?
見れば、先程進路の話をしていた男子たちがこちらを見ていた。
「してないっすよー」
犬ちゃんが手を横に振りながらそう言った。
そしてそのまま、男子たちの方へと向かう。
さっきの声——……。
壱の声に聞こえたような気がしたけど、零の声にも聞こえた。
ど、どっちだったんだろう……!?
壱の声から『ナンパ』なんて言葉が出るのか……?
それなら女性経験豊富の零の方が言いそうだけど——。
でも零って、あんな低い声だったっけ?
否、でも——……。
なんだか頭が混乱して来たので、これ以上深く考えるのはやめることにした。