コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *叶恋華*Ⅱ β実話β ( No.65 )
- 日時: 2011/07/31 17:34
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: YNzVsDBw)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
第十七話『オレンジの期待』
期待の言葉を聞くほど、想いは膨らんでいく。
でも、今日も明日もずっと、想うだけ。
君のことを、ただ想うだけ。
**
その日の放課後。
掃除が終わった後、優と学校に残っていた。
私も優も暇だったので、学校の中で語ることにしたのだ。
これは、学生ならではの出来る事だと思う。
大人になったら、学校の中でこうやって友達と居る事も出来ない。
「ここで話すべ」
優がそう言い、二階まで遠出した。
一階では職員室があるので、先生に見つかればうるさい。
由良が活動しているだろう美術室前の廊下の窓を、優は豪快に開けた。
窓から風とオレンジ色の光が入り込み、優と私は窓の枠に腕をかける。
少し眩しい光に、私は目を細めた。
ちょうどここから見えるグラウンドでは、野球部の活発な声が聞こえてくる。
「……門倉に会いたい……」
野球部の練習を見つめながら、優は溜息混じりにそう呟いた。
前より伸びた優の髪と、私の髪が風に揺れる。
耳には『ウェーイ!』だの『イッチニ! イッチニ!』などの野球部の声が木霊しているが、頭の中で大好きな人の顔を浮かべた。
「ここにテニス部がいればなぁ……、なんちゃって」
言った後になんだか照れくさくなって、少し誤魔化した。
テニス部は、公園のテニスコートで練習するので、グラウンドにも体育館にもいない。
こういう時、本当にテニス部に入ればよかったと後悔する。
「門倉と話したいよ〜」
「私も壱と話せるようになって、仲良くなりたいよー……」
恋をすると必ずしも思う、そんな願い。
自分で動かなきゃ、何も進展しないけれど——……。
私は頬杖をついて、溜息を零す。
「バレンタイン、壱に直接渡せばよかったのに〜」
「そうだよねぇ……」
本当、優の言う通りだ。
忘れかけてたバレンタインの悪夢が、私の脳内に甦る。
あんな形じゃあ、由良が壱にあげたようなもんだよね……。
「だって壱、言ってたよ? 私と壱、隣だった時あるじゃん」
「うん……」
「その時に『依麻にホワイトデーあげるの?』って聞いたら、『ん〜、どうしよっかな』って」
「え?」
「でね、『あげなよー!』って言ったら、『だって俺、直接貰ってねーもん』って」
な、何その話……!!
初耳なんだけど!!
じゃあ、優が言ってることが本当ならば——……。
私が直接渡したら、壱はお返しをくれた?
壱は笑顔で、私のチョコを受け取ってくれた?
そう考えると、胸が痛い。
もう今は四月なのに——。
「だから、壱は直接欲しかったんじゃない? あげればよかったのに〜」
「あぁぁ……。直接あげればよかった……」
重い後悔が胸に突き刺さる。
私が直接渡してれば、今頃違った運命だったのかなぁ……。
くそぉ、私の馬鹿!!
「んでさー、話変わるけど……。由良が前にさ、壱のこと好きだったじゃん?」
「……あー、うん。私と被ってたよね」
優の言葉に、私はまた記憶を掘り返した。
これは、つい最近の出来事。
二年生の最後、優と由良と喧嘩して——……。
由良の好きな人と私の好きな人が、壱だった時の話だ。
「そん時にさぁ、由良に『壱にどう思ってるか気持ち聞いて』って聞かれたからね、壱に聞いたんだ」
「……うん」
「それで壱にね、『由良のことどう思う?』って聞いたら、『あー、あれは論外』だってさ」
「……え」
論外て。
「それ由良本人に言う訳にゃいかないからさ、由良には嘘ついて『普通』って言っといたんだけどね」
「そうだったんだ……!」
それを聞いて、少しだけ心が晴れた気がした。
由良は積極的だし、恋愛経験豊富だし——……。
彼氏が出来る事も多かったので、不安だった。
なので、由良には悪いけれど……少し安心。
そう感じてしまう私は、なんて性格が悪いんだろうか。
「——で、ついでだから依麻のことも聞いたんだ」
「え、」
新学期の、由良の言葉を思い出す。
【『普通』だって】。
その一言に、どれだけ私は悩んだのだろうか。
優の言葉を聞くのが怖かったが、覚悟を決めた。
壱が『普通』と思っていようが、もう私は『壱をずっと好きでいる』と決めた。
迷惑かもしれないけど、好きなもんは好きなんだからしょうがない。
そう決断したんだ。
しかし、優の口から意外な言葉が出てきた。
「そしたらね、『普通より……、上』って答えたよ」
「……っえ……?」
驚くと同時に、グラウンドからボールを打つ金属音が聞こえてきた。
何と言うタイミング……って、そうじゃなくて!
普通より、上——?
普通じゃない。
由良の聞いた言葉と、違う。
何、それ。
普通より上って、何?
普通以上好き未満?
「だから、チャンスあると思うよ?」
優が、そう笑った。
チャンス——……。
頭の中は一気に弾けるように、熱くなった。
期待するの、やめたのに。
そんなこといったら、期待しちゃうよ?
散々期待した後、痛い目に合うのはわかってるのに——。
そんな言葉を聞いてしまった以上、心が言うことをきかない。
『期待』というブレーキが、きかない。
高鳴る胸を抑えながら、どんどんオレンジに染まっていく空を、ただ茫然と見つめていた。