コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:   +Rainbow Light Music+   ( No.19 )
日時: 2011/07/22 18:29
名前:   苺羅、 ◆m.d8wDkh16 (ID: xe6C3PN0)
参照:   ▼ 上辺ゎ関わってこないで下さい




 第七話『将来の夢』





 三時間目は、移動教室。美術の授業で、校内をデッサンするというものだった。
 中学の時の美術は、ほとんどデッサンをしたことがなく、意味不明な作品作りばかりだった。
 だからこういう、簡易的……というか、普通のデッサンの授業にちょっとした憧れを抱いていた。


 私はスケッチブックを持って、江実と校庭を描くことにした。
 近くの階段に腰を下ろす。




 「ほら、丁度今の時期、桜が咲いてるしいいよね」
 「ほんとだね〜……私、桜大好き」
 「えっ」


 江実が、微笑みながらそんなことをいったので、ビックリした。


 「……やぁだぁ〜! 花の桜だってば! あんたも桜って名前だけどさぁ!!」
 「あ、あはははは……」


 一瞬勘違いをした私が、急に恥ずかしくなってきた。
 一方江実は、鉛筆を走らせ始めた。




 「ねえ」



 江実は、紙に目を向けたまま、話しかけてきた。





 「何?」
 「……あんたってさぁ、将来の夢……とかある?」
 「特にないよ」



 即答できる自分も、なんだかなぁ……。
 中三の時のクラスの中には、就職に有利だから、といって高専や商業科へいった人もいるし。
 本気で絵の勉強をしたいから、美術科の推薦を受けた人もいるし。
 英語の勉強をもっとしたいから、国際関連の学科を受けた人もいるし。


 もちろん、普通科に行く人も、文系の大学にいきたいとか、理系の大学に行きたいとか。
 そういう人だって結構いた。皆、十五歳のうちに自分の将来を決めていくのかな……。


 私は、ただみんなと一緒がいいから、この学校を受けたわけだし。
 正直、普通科のところであの四人と一緒なら、虹ヶ丘でなくてもよかったとおもう。
 大学にいきたいのか、就職したいのか、専門学校へ行きたいのか……なんて、何も考えていない。



 それっていけないのかな? 十五歳にもなって、まだ自分の将来を決めていないなんて。
 



 「……私ね」



 江実は、真剣な眼差しになった。






 「バンド組んでるっていったでしょ?」
 「うん」
 「あのバンドで私、がんばっていきたいんだ! もっと知名度をあげて、ライブの客も増やす」
 


 江実は、鉛筆をとめて、話を続けた。





 「それで……いつかプロになって、皆の心に響くような歌を作って、歌いたい!」
 「…………」




 江実の顔は、キラキラ輝いていた。
 それに吸い込まれるように、私はなにもいえなかった。
 私のすぐそばで、こんな素敵な夢を持っている人がいる。




 「……中学のとき、皆に色々迷惑かけちゃったから……それの、お詫び? みたいなかんじ?」
 「え……」
 「もうあんな暴力もしないし、ガラスも割らない。高校から更生しようと思ってたんだ」




 江実……。





 「ばんそうこうは、昔作っちゃった傷を隠してるだけなの。メイクは、まぁ好きだからやってるだけ。
 でもね……変われるか、不安だった。友達も、やっぱりできないままなんじゃないかなっておもった」




 江実は、私の目をしっかりとみた。
 私も同じように、江実の目をしっかりとみた。





 「でも、あの日……桜の目を見て思ったんだ。すっごい、優しそうな良い人なんだなって」
 「……え?」
 「すぐに友達になりたいとおもった」




 ……そうだったんだ。
 私ってば、無駄に怯えまくって、馬鹿みたい。
 江実は……江実は……変わろうと、決意してたんだ。




 「……って! 何語ってんだ! はやくやらないと!」
 「あ、ほんとだ!」



 私達は、そうやって笑いながら、デッサンを進めた。