コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: +Rainbow Light Music+ ( No.71 )
- 日時: 2011/10/30 20:55
- 名前: 苺羅、 ◆m.d8wDkh16 (ID: S86U/ykR)
第三十三話『また会えるから』
数分待ったとき、先輩はふいに現れた。
「……百屋さん」
彼は息切れしながら、私の名前を呼んだ。
それが、すごくいとおしくて。
今すぐにでも、彼の中に飛び込みたくて。
けど、ドキドキがそれを許さなかった。
「……あの」
私は、おそるおそる、お土産をもった手を伸ばした。
先輩はゆっくりと、それを受け取ってくれた。
私の緊張感は、何故かさらに増す。
「ありがとう!! 嬉しいな」
「……あの、その」
今なら、全て伝えれる気がするの。
緊張は収まらないのに、なんでこうおもったかは、自分でもよくわからない。
けど、今伝えたほうがいいって、もう一人の自分がそう叫んでいる機がしたんだ。
「先輩、好きです」
私の精一杯の気持ち。情熱的な言葉なんてなにもいえない。
ドラマみたいなシチュエーションなんて、できっこない。
けど、これが私の、精一杯の告白。
その瞬間、私はみるみる顔が火照っていくのがわかった。
今すぐにでも逃げ出したくなった。
私は、その場から去ろうとしたが、先輩の声がそれを止めた。
「……本当かい?」
「……ほ、ほんとうです!」
沈黙が続く。
こういうのって、ほんとう気まずい。
今度こそ本当に恥ずかしくなってきた。
「そういえば、言ってなかったな」
「え?」
告白の返事かと思いきや、先輩が口にした言葉は、意外だった。
意味深な発言、一体なにをいうつもりだろう?
私はいつのまにか立ち止まり、先輩の次の言葉を待った。
「……実は俺、その、唐突なんだけど、東京に行くんだ」
「え? そうなんですか? ……え?」
私は、状況が飲み込めず、目を何回も瞬きさせた。
先輩は、飽くまで冷静な表情で、話を続けた。
「実は、母さんが今入院してるんだけど、それを治すにはもう、東京の大病院にいくしかないって。
そこに、すごい医者がいるから……なんとか、母さんの貯金で医療費は出せそうだし。
俺のとこ、シングルマザーでさ……俺には兄弟もいないし」
先輩は、冷静な顔から急にしおらしくなった。
私は先輩の目をジッとみつめて、話を聴いた。
「女手一つで俺を育ててくれたんだ。だから今度は、俺が母さんを支えてやる番だとおもってさ。
……俺も一緒に、東京についていくことにしたんだ。母さんは、俺が守ってやるって決めたんだ」
先輩の眼差しは、真剣だった。
私はその真剣さに、思わず吸い込まれそうにもなった。
「……じ、じゃあ、学校は? 引越しするんですよね?」
「そういうことになるな。夏休みの終わりにある大会が終わったら、俺は東京に旅立つ」
「……先輩、じゃあ、陸上はどうするんですか?」
私の問いに、先輩は「フッ」と笑った。
「俺は東京の学校に編成して、バイトして母さんを支えるって決めたんだ。
で、大学に行ったらまた陸上を始める。もちろん、それまでにも日々のトレーニングはやるつもりだよ」
「……そうですか、なんだか、すごいですね……」
私はそのとき、ふいに先輩から目をそらしてしまった。
「……本当は、志望校が丁度東京の大学だったから、いい機会といえばへんな言い方になるけど……」
「そうだったんですか……」
私は、数秒沈黙のあと、次の質問に移った。
「先輩、ま、またここにきてくれますか?」
「ああ。母さんが治ったら必ず戻ってくるよ……。大学にいっても、ここには絶対来るよ。
友達に会いに、そして……」
そのとき、先輩は俯いていた顔をあげてくれた。
その顔に私はふいにドキッとする。
「君に、会いに」
「……先輩」
そのとき、私の目からは急に涙がこぼれた。
ええい、なんでないてるんだろう、私は。
「先輩……お母さんがはやく治るよう祈ってます、先輩、絶対また会えますよね?」
「……もちろんだよ」
私はいつのまにか、先輩の胸に飛び込んでいた。
優しい先輩は、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
**
夏休みは終わりに近づき、いよいよ、先輩が東京に行く日になった。
学校は二学期初日から行ったほうがいいということで、先輩だけ先に行くらしい。
空港は案の定、虹ヶ丘の先輩のファンや友達で溢れかえっていた。
私は、里子と桜と共に、その場所にいた。
先輩の周りには人がたくさんいて、とても近づけない状態だ。
私はそれをただ、みつめているだけだった。
「お別れの言葉、いわなくていーの?」
「……別れじゃないし」
里子の言葉に、私は呟いた。
別れなんていう言葉、大嫌い。
絶対にまた会える、絶対に……信じてるから。
「とりあえず、なんかいってきたら?」
「うん!」
桜にそういわれ、私は少し勇気がわいた。
といっても、人だかりのすぐ近くでぽつんと立ってるだけ。
私は先輩にまなざしを向けていると、ふと気付いてくれた。
「……先輩、またね」
私は、小声で呟きながら、大きく手を振った。
先輩もにこりと微笑むと、手を振り返してくれた。
忘れないよ、先輩の事。
先輩が大好きだった期間。
でもこれで、終わりじゃない、別れなんかじゃない。
絶対、また会いましょうね、先輩。
ずっとずっと、大好きです。
愛しています。