コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

♪4 ある冬の日の私と詩集のノクターン。 ( No.113 )
日時: 2011/08/03 21:15
名前: とろわ (ID: 1ZQMbD0m)

あ、どうもどうも。
今回は輝樹くんじゃなくて、私———楠ちとせのお話。
何で輝樹視点なのかを知っているんだ、とかいう面倒な質問には答えたくないから割愛させていただく。
…ま、風の噂で伝わってくるんだよねー。色々。

今回のお話は、輝樹くんが手芸部に入る前、私がまだ高2の頃のお話。




なんとなく、本を買いに行こうと思った私は、そそくさと着替えて、近所の本屋へ向かった。
ちなみに、季節は一月の後半の日曜日。寒い。雪とか降ってる。
でも、自分の家にある本は全部読んでしまったから、特にすることもなく、新しい本を読みたい私にとっては非常につまらない。
…そうだ、やたらと分厚い小説でも買おう。そうしよう。

私はカーディガン派なので、外に出たり、寒かったりする時は大体カーディガンを羽織る。
今日は紺のカーディガンでも羽織ろうかな。
あ、眼鏡に雪がはりつくのも嫌だし、今日は外していこう。伊達だしね。
後は財布を持てばOKか。…よし、行こう。


「あー、寒っ」
思っていた以上に寒かった。
でも、引き返すのも面倒だし、しょうがない、このまま本屋まで行くか。
そうして歩いていると、見た事のある奴がいた。
本人はまだ気づいていないみたいだし、そそくさと横を通りすぎるとしよ———
「あ、楠ぃ!」
ああ、ばれてしまったか。
そいつ———罪木耶麻は、ポニーテールをゆっさゆっさと揺らしながら、まっすぐこちらへ向かってきた。
「珍しいね、雪が降っているのに楠が出歩くなんて」
「私は本を買うためだけに外に出ているだけだよ。…そうは言うけど、罪木だって何で外に出てるのよ」
私は呆れ顔でそう返すと、罪木は石焼きイモの宣伝が聞こえたからとかいう、よく分からない理由を笑顔で言い放った。
…そういえば、罪木の手には、石焼きイモが入った紙袋がある。今さら気づいた。
「よかったら、楠も食べる?」
「残念、私は辛党だからね、焼き芋よりもキムチ鍋とかの方がいいね」
「相変わらず楠は冷たいなあ。せっかくの好意ぐらい、受け取ってくれたっていいじゃないか」
「ははは、あんたに借りを作りたくないから、ね」
私はそう言った後、スタスタと本屋の方に向かった。
これ以上奴と話していると色々きりがないしね。それに寒いし。
なんかアイツが色々言ってるけど、華麗にスルーする事にした。


「眼鏡かけてない楠なんて、初めてみたなあ……」




本屋についた。
私は頭についた雪を払い落し、店内に入って行った。
そこまで広くはないけど、結構珍しい本が置いてあったりして、私はよく此処に通う。
後、この店の看板猫が凄く可愛い。ぽっちゃりしている猫で、ふてぶてしい。でも、そこがなんか可愛いと私は思う。

「さて、何を買おうかなあ…」
小説が置いてあるコーナーで、私はうろつく。
私の家から少し離れたところにある、新しい書店には置いて無いような年代物の小説が置いてあって、私は自然とにまにました。
少しカビ臭いのがまたたまらないんだよねえ、こういう本って。
「ファンタジー系も、久々に読んでみようか、それともサスペンス系か…いや、この間面白そうな恋愛モノを発見したから、それにしようかなぁ…」
無意識に私の独り言が発動する。
でも、他にお客さんもいないみたいだし、いいよね。うん。
気がつけば、時間はどんどんと過ぎていった———…


「ありがとうな、お嬢さん。いつも此処に来てくれて」
この店の店主の、いつもニコニコしている優しいおじいさん。
私はこの人が凄く好きだ。…あったかいしね。
いつも買う時にこのおじいさんと話をするのが、此処に来た時の日課となってる。
「いえいえ。…この店には、珍しい本がたくさんありますから」
そう言って、私はにこりとほほ笑んだ。
そうすると、それに答えるように、おじいさんもほほ笑みかけてくれた。
「そうかそうか。…それなら、お嬢さんにとっておきの本をプレゼントしてやろう」
「え、いいんですか?」
私は少し驚いた。
そんな事、初めて言われたからだった。
「まあ、少し古くて、痛んでいるんだけどねえ」
そう言って、おじいさんが差し出してきたのは、どうやら詩集のようだった。でも、筆者の名前に聞き覚えがない。誰なんだろうか。
「これはね、若くして亡くなってしまった詩人が書いた、最初で最後の詩集なんじゃよ」
そう言うと、おじいさんはどこか遠くを見つめた。
誰か知っている人なんだろうか。とりあえず、あまり言及しない方がいいだろうなあ。
私はそれを、無言で受け取った。

「まあ、後で帰ったら見てみてあげてくれ。…多分、彼女もきっと喜ぶじゃろうよ」





私は雪の中、急ぎ足で帰ってきた。

自分の部屋のベットに横になって、さっきもらった詩集を見てみる。
そこに書いてあった詩のなかに、こんなものがあった。

【あなたの手は、いつもあたたかい。
私の細い腕を優しく包んでくれる。
私はあなたのあたたかさをゆっくりと感じる。
それだけで、私は幸せになれる。

でも、私はいつもあなたの瞳を見れない。
見てしまうと、私は私じゃなくなるようで怖くなる。
だから、私はあなたからいつも逃げてしまう。

それでも、あなたの手はあたたかい。
あなたの手は、いつもあたたかい。】

「……ふふっ」
恋愛小説を見ているような気分になる私。
一体、彼女はどんな気持ちでこれを書いたのだろうか。
私にはわからないけど、いつかこんな事があるのだろうか。

…ま、私のキャラじゃないんだけどねえ。それは。






なんでいきなりそんな話をしたかというと、部屋の整理をしてきたら、たまたまそれが出てきたわけで。
懐かしくなって、色々思い浮かべてみた、というだけなんだよねえ。
…また後で読み返そう。この詩集。











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てな感じの、参照数250突破記念の部長な番外編でした。
やたらと長いね!でも気にしないであげてください。



今度は何書こう。どうしようかなあ。