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Re: *田中さん家の日常*『参照200突破記念SS更新』 ( No.60 )
日時: 2011/10/01 18:04
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: Tt5vDeWP)

じゅうに  「でこぼこコンビというのはそう珍しくもない」

「藺夢さんはどこでしょうか……」

大学の構内に入ると、私は友の姿を探します。彼女は背が低いので、人が多い構内では探すのが一苦労。なるべく視線を落として前に進みます。
すると、ふと声が聞こえました。

「だからさ、梓のこと知らないかって聞いているんだよ」
「はいはい。中学生はお呼びでないんだよ。というより、そういうのは俺たち警備員じゃなくて友達に聞いてくれ」
「中学生じゃないっつーの!私はここの学生だ!」
「おーい、誰だガキを入れたのは」
「だぁかぁらぁぁあああ!!ガキって言うな!!」

慎重が高い警備員さん相手に、ぴょんぴょん跳びながら訴える姿は少し愛くるしいですが、当の本人の気持ちを考えると、少し可哀想です。
もう少しその光景を面白おかしく見ていたかったのですが、さすがに本人は怒り心頭のようなので、助け船を出します。

「藺夢さん。私の事探してたんですか?」
「わっ!……ってなんだ、梓か」
「ふふっ。おはようございます」
「あの、こちらの方は妹さんですか?」
「はい?」

私の存在を勘違いしたのか、警備員さんは私に向かって優しく聞いてきます。おそらく、こんなうるさいガキを相手するのにようやく解放された、とでも言いたいのでしょうか。私はそれに苦笑すると、いいえと首を横に振ります。

「違います。私の友達です」
「と、友達?失礼しました」

慌てて謝ると、警備員さんは足早に去っていきました。その後ろ姿に藺夢さんはあっかんべーをすると、私に微笑みます。

「梓、おはよ」
「おはようございます、藺夢さん」
「それにしても、本当に失礼だよなぁ」

彼女は私を見上げながらつぶやきます。
彼女———峰月藺夢(みねつき いむ)———の身長は155センチを聞いていますので、私よりはるかに小さいです。そんな彼女に私はいつも通り敬語を使って話しているので、端から見ればいったいどんな関係なのかと疑問に思われるでしょう。敬語が苦手な藺夢さんと、タメ口が苦手な私。なんともでこぼこではありますが、やはり同じ学科ということで仲良が良いのです。

「そういえば、今日は私の家でレポート書くんだっけ」
「はい。やはりご迷惑でしたか?」
「いやいや、そんなことないって。むしろうちの母親が喜んでた」
「それは良かったです」

仲が良く同じ学科というのも手伝ってか、これまでにも幾度か彼女の家にお邪魔したことがあり、そのたびに藺夢さんの両親にはとても良くしてもらっています。そのこともあってか、私も彼女の両親に会うのもとても楽しみにしています。

「いつもお世話になっているので、今度は私の家に招待しますね」
「お、本当か?楽しみだなぁ、それは。あ、そうだ。帰りに夕飯の食材買って来てって言われているんだった」
「それなら私も手伝いますよ」
「サンキュー。じゃ、帰りは駅前のスーパーにでも行くか」
「はい」

そう言うと、藺夢さんはニコッと微笑みました。
…………その微笑みに、いつの間にやらいた男子学生がうっとりしていたのは、あくまでも無視で。