コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *田中さん家の日常*『13話更新』 ( No.67 )
- 日時: 2011/10/28 15:47
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: 3s//keBI)
じゅうよん 「彰人のお昼」
「すみませーん、注文お願いします」
「あ、はいっす。今行きます」
「彰人くん、すまないがお冷をくれないか」
「かしこまりましたっ!」
時刻は12時過ぎ。お昼休みのサラリーマンが、夫婦二人で営んでいる小さな定食屋に集まってきた。決して大繁盛しているとはいえないお店だが、長年の常連客などが毎日ここに通ってて、それないに繁盛している。その理由は、安くて美味しい日替わり定食というのもあるが、一番の売りは親父さんとおかんの人柄だろう。
「おかん、水くれないか」
「はいよ。って、近くにあるじゃないか。甘ったれるのもいい加減にしなよ」
「良いじゃねぇか。15年の付き合いだろ?」
「15年じゃ、まだガキだよ。そうだろ、あんた?」
「ま、うちのかみさんにしては、15年もありゃ様変わりするのにもってこいの年月だな」
「あんた、もういっぺん言ってみな」
お店を始めてから、今年で25年。開店してから、ずっと通い続けている常連さんもいるらしい。それほど、この二人の人柄は多くの人に親しまれている。
おかんと呼ばれている店長の奥さんは、ふくよかな体を揺らしながら、一人ひとりお客さんの話に付き合っている。
「ちょっと彰人。手が止まっているよ」
「あ、すいません」
「まったく。そういえば、最近梓ちゃん来てないねぇ。どうしたんだい?」
「梓はレポートの提出とかなんだかあって、忙しいらしいっす」
「そうかい。うちも梓ちゃんみたいなかわいいお客さんが来てくれないと、華がないんだよねぇ」
妹の梓のことも気にしてくれて、家族ぐるみの付き合いもしている。
特に、梓は高校時代に短期間ながらも、ここでバイトをしたこともある。そのせいか、おかんも店長も、梓のことをとてもかわいがってくれている。
たまにこの店に来てくれたりもするし。
「彰人君、すまないが藤原さんの手伝いをしてきてくれないか。まだ戻ってこないんだ……」
「あ、分かりました」
おかんとは対照的に、とてもひ弱そうな親父さんは、店の裏を指差しながら言った
俺も、そろそろ行った方がいいのかなと思っていたところだったので、裏に回った。
「おーい、大丈夫か?」
「あ、えと、はい、大丈夫デス!……っと、え、きゃぁ!!」
悲鳴と同時に、高いところから何かが落ちたような音が聞こえた。
俺はまぁなんとなく予想がついたが、何事かと思って急いで行く。
「いったた……」
「……ぜんぜん大丈夫じゃないだろ。立てるか?」
「あ、はい。すみまセン……」
そこには、大きな箱の下敷きになった、小柄な女の子がいた。俺と同い年の、藤原里麻。兄が有名なパティシエで、それにあこがれて自分も目指している。……が、何を思ったのか定職屋でバイトしている、よく分からない子だ。しかも、作れるお菓子がシュークリームだけという、本当によく分からない。
「それにしても、どうして田中君がいるんデスカ?」
「親父さんに手伝ってくるように言われてさ」
「そうデシタカ……。ありがとうございます」
俺の差し出した手に、はみかみながらつかまる藤原。
ちなみに、俺は彼女のことを藤原。彼女は俺のことを彰人さんと呼ぶ。正直、同僚とか年上には基本的に呼び捨てで、年下からも彰人君と呼ばれるので、さん付けは少し恥ずかしかったりする。
「それより、これを親父さんのところに持って行けばいいのか?」
「あ、はい」
「じゃ、手伝うわ」
「ありがとうございマス!」
小柄な彼女が、俺の隣に並んで歩く。
同い年で異性なんだけど、なんだか妹のような感じがするのは、不思議だ。