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- Re: *田中さん家の日常*『参照300突破記念SS更新』 ( No.71 )
- 日時: 2011/12/01 19:21
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: 3s//keBI)
じゅうご 「人格形成に問題ありの弟と料理がからっきしの兄では、どちらを先に対処すべきか悩める三男」
「……さて、困ったな」
部活が終わり帰宅してから早30分。俺は冷蔵庫の中身を見ながら、困惑した表情を隠せずにいた。
俺より早く帰ってきていた孝太は、今リビングでテレビを見ている。おそらく昨日録っておいた刑事ドラマだろう。そんなに心配はしていないが、人格形成にこれ以上問題が生じないようにと横目で見ながら、もう一度思考を戻す。
この30分の間、ずっとこの台所にいる。普段は部活が終わって帰宅したら、必ずシャワーを浴びるのだが、今日はしていない。それほど、俺は切羽詰っていた。
その理由は、第一にあず姉が昨晩俺に言ったこと。あの時は説明を放棄——し、したわけではないが、そのことに関係している。して、その理由は。
「彰兄は料理はからっきしだもんね。帰ってくる前にある程度僕たちで夕飯作っておかないと、あの料理を食べることになってしまうよ」
「なんで俺の台詞をとるんだよっ!!」
っていうか、こいついつの間に俺の隣に来てたんだ。
孝太は冷蔵庫の中をちらりと一目すると、けだるそうに言った。
「冷蔵庫の中身が減っているから、今日のメニューを決めてから買い物に行ったら?」
「メニューか……」
俺、そういうの苦手なんだよなぁ。
この台所を使っているのは、ほとんどがあず姉だ。たまに彰兄が使ったりもするけれど、ほとんどがあず姉のテリトリーとなっている。
料理好きというわけではないけれど、育ち盛り食べ盛りの弟と、働き盛りの兄のために、あず姉は日夜どのようなメニューにしようか考えてくれている。そして、ほとんどひとりで作っている。
そのせいもあってか、俺たちは料理関係はほとんどあず姉にまかせっきりだ。
「ま、あず姉自身が楽しんでやっているっていうのもあるけどね」
「そうだな。とりあえず、お前が最初に言ったように、彰兄が帰ってくるまでに夕飯を作っておこう。手伝ってくれ————」
「やだ」
「即答かよ!」
なんか弟にここまで心を袈裟切りにされる兄って、なかなかいないんじゃないか?
冷蔵庫から炭酸飲料を取り出してリビングに戻ろうとする孝太を、なんとか引き止める。
「ちょ、ちょっと待て!俺ひとりでやるのか!?4人分の料理を!?」
「だって、言いだしっぺだし」
「そういう問題じゃないだろ!ここは、ほら。兄弟力を合わせて——」
「無理。あず姉とのなら力を合わすけど、翔兄たちと力を合わせるなんて、カオスにしかならないじゃん」
「カオスの原因は多分お前だと思うけどな」
というか、いつだって輪を乱すのはお前だと、どうして自覚してないんだ。
いや、やはりこういうのは自覚していないのだろうか。
「と、とにかく頼む。今は6時過ぎたから、あと1時間半で彰兄が帰ってくる」
「……………………」
「頼む、このとおりだ!」
顔の目の前に両手を持っていって、拝むようにする。
……いや、これを弟にやる時点で、俺のプライドとか兄としての責任とかのゲージがみるみる減っていっている気がするが、この際関係ない。
「……仕方ないなぁ。はっきり言って面倒だし嫌だし押し付けたいけど、手伝ってあげる」
「おおぅ、なんだか俺のほうが年上で兄なのに見下されている気がするが、とりあえずサンキュ!」
「あとで何らかの見返りは要求するけどね」
なんでこいつは兄に対してこんなに態度がでかいのか気になるところだが、俺はその辺については追求しないでおくことにした。
理由は簡単だ。
彰兄に料理をさせたくないという気持ちのほうが、孝太を早く更生させないという気持ちを上回ったからだよ。