コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: *田中さん家の日常*『第15話更新』 ( No.82 )
- 日時: 2012/03/04 18:14
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: 3s//keBI)
じゅうろく 「安くて少し劣っているのを選ぶか、高くていいものを買うのか。スーパーに行く度に迷っていますby作者」
スーパーでありがちな失敗談。それは、チラシを持ってこなかったりして、特売品などを買い逃すというパターン。これはお約束だ。かくいうあず姉も時々やっては、買い逃した品を俺や孝太や兄さんたちに買いに行かせたりしている。こうなっては時間の無駄だ。だから俺はぬかりなく、今日の新聞に挟まっていたチラシを持参した。財布も持ったしエコバッグも準備万端。
——な、はずだった。
「なんで……なんで孝太を忘れてきたんだ俺ぇええええ!!!」
スーパーの前で頭を抱えるイタイ少年を尻目に、主婦の皆さんは半目を向けながらスーパーに入っていく。ピロピロロンなんて音を立てる自動扉が、今の俺にはじゃっかんの冷静さを取り戻させる。
うん、分かってる。「弟忘れるとかねぇだろww」とかいうツッコミが来ることは想定済みだ。それから、「おまえオチ狙ってんじゃねえよ」とかいう荒らしもお断りだ。そんなの……俺も思っているんだから。
話をつい20分ほど前に戻す。孝太はぶつぶつ言いながらも、外に出たらすっかり行く気満々になっていた。結局、孝太も根は真面目だからな。頼みごとは断れない性分なんだろう。兄としてはとてもありがたい。
すると、家から5分過ぎたところで問題が発生した。それは、
「あず姉に似た子犬から離れなくなるとはな……」
兄である俺でさえも引いた。たしかにあの子犬はあず姉に似ていた。トイプードル特有のくりくりとした瞳とか、母性(?)をくすぐるようなほわほわ感。
いや、驚いたのはそこではない。驚いたのは……。
「まさかあいつが底知れない犬派だったなんて」
子犬と孝太の目が合った瞬間、孝太の表情が変わった。目が、こう……キラーンというか、キュピーンという感じにきらめいた。あんな表情がいきいきした孝太ははじめて見たな。
最初のうちは俺も一緒になって撫でたりしていたが、さすがに飼い主さんにも迷惑をかけてはいけないと思い、先に切り上げた。
『孝太、そろそろ行くぞ』
『あ、うん』
返事したから、てっきり後を付いてきたと思った。
のに。
「ついてくるどころか、そのままUターンして家に帰るなんて選択肢、俺にはねぇよ……」
むしろ考え付かない。
しかもあいつ、さっき電話したらなんて言ったと思う?
『あ、翔兄? なんだ、今どこにいるんだよ。僕、もう家にいるけど。……あぁ、買い物ね。忘れてた。僕は今日焼きそばが良いから、その材料買ってきておいてよ。それじゃ』
あんまりだと思わないか? あとから行くからとかないうえに、自分の希望をさりげなく言っておいて材料は他人任せだぜ? あいつ、絶対料理も手伝う気ないよな。
「……はぁ」
思わず溜息が漏れる。仕方ない。こうなることは予想してなかったが、今からあいつを家から出すのも面倒だ。
結局、苦労するのは俺なんだよなぁ。