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- Re: 【改名】 ダウト 【+二日間休業のお知らせ】 ( No.15 )
- 日時: 2011/09/05 19:08
- 名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: Ui5uT1fk)
【マジシャン】
「知ってるか? 神様がよ、体放り出して魂だけでどっか行ったんだとよ」
酔っ払ったロクでもない悪魔や魔族が集う酒場で、血の色のワインを飲んでいる彼女の耳に、気になる話題が飛び込んできた。その声は取って置きの噂話をするのにふさわしい小さな声だったが、魔族の中でもずば抜けて耳がいい彼女の耳にとっては、拾うのは容易い声だった。
彼女は人面樹でできた椅子を後ろに引き、身を寄せ合うようにしてひそひそと噂話を続ける緑色と黄色の悪魔の背後に立った。そして、鼠取りが鼠を挟み込むように、ガバッと後ろから二匹の首に腕を回すと、言った。
「何、気になる話じゃないか。お姉さんにも聞かせてくれないかな?」
悪魔達は顔を見合わせ、さぞ嫌そうに顔を歪め、彼女と目を合わせないように反対方向を向いた。
「む」
そのやり方は、少々手荒とも思えた。
彼女は二匹の首に回した細い腕に力を込めて行き、二匹の首を思いっ切り絞める形になった。
ガタン、と椅子が鳴り、二匹の足が地を離れてばたついた。
しょうが無い。彼等は人見知りとして知られ、同僚以外には一切話しかけもしないし、話しかけられてもとことん無視をする。彼女は、悪魔に喋らせる術を知っていた。
「ぐ…………ぐげっ!は、なして下さ……、喋り、ま、す、か、ら、あ!」
店内に響く珍しい悲鳴を聞いた、酔った客がニヤニヤと笑いながら、店員が迷惑そうに目を細めて、彼女を見つめている。彼女の方が悪魔なのではないか、と、思う客も居ただろう。
彼女は満足気な顔で一度頷くと、パッと悪魔の首から腕を離した。支えが無くなった悪魔達は、大きな音をたてて床に転がった。醜い顔が、さらに醜く苦痛に歪む。
「話してくれるんだね? 偉いなー、じゃあ、手っ取り早くお願いね?」
彼女に勝てる悪魔は居ないだろう、と、彼等は溜息を一つついて、ひそひそとしわがれた声で話し始めた。
「神様、最近ご機嫌が悪かったそうで……。苛立って、魂になって体から抜け出してしまったそうなんです」
「それで……、人間界で体を捕まえて、人間界で生活してるんですって」
「僕らが知ってるのはこれ位なので、し、失礼します!」
「失礼します!」
話し終えた悪魔は素早く店から出て、音を立てて走り去っていった。代金を払い忘れた客を追って、店員がガタガタと椅子をどかしながら後を追う。
彼女は、笑った。
「なあんだ、あいつ今、からっぽなんだ」
チャンスだ、と、笑った。
彼女は自分が飲みかけていた酒の入ったグラスを持ち上げ、いっきに飲み干した。こぼれた酒が顎をつたリ、落ちる。顎についた酒を手首でぬぐうと、彼女は店を出た。
代金を受け取った店員がまた、金を払わない客を追って外に出て行った。