コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ダウト ( No.16 )
日時: 2011/09/18 15:46
名前: 玖龍 ◆7iyjK8Ih4Y (ID: AidydSdZ)
参照: 服の値段は適当です。ご了承を。俺服買わないモンで。

「此処で、合ってるのかな」

 ロスト達が立ち止まったのは、黒と白でごてごてと飾られた店の前だった。それは凄い飾り様で、言葉には表せないくらいキラキラとしていた。それに答えるように、アレンの瞳もキラキラと輝き始めた。

「これ以外無さそうだ」
「そうだね、じゃあ、入ろうか」

 アレンの意見が最もだと思ったロストはアレンの手を引いて店の中に入ろうとした。アレンが手を振り解いて、俯きながら小さな声で言った。

「こんな店、手なんてつないで入ったらカップルだと思われるだろっ……」

 どうやら照れているらしい、と、ロスとは悟った。
 ——こんな店に男女で入る時点でカップルと思われるんじゃないかな。
 ロストはくすっと笑って、店の扉を引いた。カラン、と乾いた鈴の音が響く。

「ほら」

 アレンはロストに引かれたまま開いている扉を通り抜けた。再び鈴の音が鳴き、ロストの足音が後ろから響いた。

「いらっしゃいませ!」

 アレンが店内に飾ってあるマネキンに目をつけたころ、奥の方から店員が見えた。メイド喫茶にいた店員よりもゴスメイクが濃く、服が派手な女性店員だ。白いシャツの上に、銀色のチェーンがジャラジャラとついたワインレッドのベストを着ている。下は黒と赤のフリルがついたパニエで、黒と赤のしましまの靴下に黒のストラップシューズをはいている。
 ——暑くないのだろうか。
 そんなことを思いながら、ロストは店員からアレンに目線を移した。アレンはマネキンをもの凄い笑顔で眺めている。

「この子に会ったコーディネート、出来ますか?」

 ロストは再び店員に目を戻し、店員に聞いた。店員はにこりと笑顔を作った。
 ——こんなメイクで笑われても、あまり可愛い気がしないんだけどな……。

「勿論!」
「有難う御座います」

 ロストは店員に礼を言い、マネキンから他の服へ移ったアレンの目線を自分に移させた。

「コーディネート。やってもらう?」
「やってもらえるのかっ!?」

 アレンは店の中に響くくらい大きな声で言った。ロストが人差し指を唇に軽く当てる。店に居る全ての客がこちらを見ていることに気がついたアレンは小さく謝った。

「やってもらえるらしいよ。どうする?」
「やる!」

 二人の掛け合いを聞いた店員は、それじゃあと言ってアレンと服を選びに、店の奥に消えていった。ロストは周りの服を眺めながら、ゆっくりと更衣室に向かった。

 ロストがフリルの沢山ついたカーテンの更衣室の前に来た時には、既にカーテンが閉まっていて、傍らに店員がニコニコとしながら立っていた。

「今着替えているところですよ」

 ロストが問うであろうことを予想していた店員は、ロストが口を開くと同時に喋った。ロストは、そうですか、と、小さく笑顔を作ると閉まったままのカーテンを見つめていた。
 あの子なら何でも似合いそうだけど、僕が女だったらこんな服着るのは御免だな。着るのに時間がかかりそうだし、動きにくそうだし、重そうだし。


 アレンが着替え終わるのに、そう時間はかからなかった。
 更衣室のカーテンが音を立てて開き、着替え終わったアレンがこちらを向いてニコニコ、と、幸せそうな笑顔を振りまいている。

「お世辞じゃなく、お似合いですね!」

 店員もにっこりと笑ってロストに言葉を飛ばした。
 アレンは、白い肩の部分が膨らんでいて、フリルのついている半袖のブラウスの上に、黒い、縦にフリルが沢山ついたキャミソールを着ていた。キャミソールは繋がっていてワンピースになっており、下は白地に黒水玉のフリルと黒地に白の水玉のフリルが交互に重なったパニエになっていた。白地に、黒い縞模様が書いてある長靴下を履いて、黒いストラップ靴を履いている。頭には白い帽子にリボンがついている、ヘッドドレスをつけていた。
 確かに、可愛い。

「どう、かな? 似合う?」
「うん。もう、君の為に作られた服みたいにすっごく似合う。可愛いよ」

 彼女の少し赤くなった可愛らしい童顔に、ロストはすこしどきどきしながらも、笑顔を見せた。彼の言葉に嘘や世辞が含まれていないとその笑顔が伝えている。
 彼女が一段高くなった更衣室から出ると、銀色の腰まであるロングストレートがふわりと揺れた。

「お買い上げになられますね?」
「はい、勿論」

 自分の横に移動したアレンをちらりと見て、ロストは頷いた。アレンは相変わらずニコニコと、幸せそうだ。
 店員は、レジへ案内を始めた。アレン、ロスト、と続く。

「二万六千円になります」

 ロストは予算を超えた会計に顔をゆがめ、手を後ろに隠してもう一枚一万円札を取り出した。アレンがロストの後ろに立っていたので、客には見えていないはずだ。
 一万円札を三枚店員に手渡すと、店員は少々お待ちください、と言い、店の奥へ消えた。
 少しすると、店員が白いウサギのぬいぐるみを持って現れた。五十センチくらいだろうか。かなり大きいぬいぐるみだった。

「こちら、差し上げます。無料ですので、ご安心下さいね」

 微笑む店員に微笑み返し、ロストはぬいぐるみを受け取ってアレンに手渡した。アレンは手渡されたぬいぐるみを受け取ると、腹の前に抱えた。

「有難う御座います」
「こちら、お釣りですね。四千円、ご確認下さい」

 ロストは四千円を受け取ると四枚あるか確かめた後で、もう一度手を後ろに隠した。アレンは、四枚の千円札が音も立てずに消えるのを見た。

「では」
「有難う御座いました。またのご来店お待ちしております」

 店員のやわらかい声を聞きながら、ロストはアレンの手をとって店の扉を押した。カラン、と、入ったときと同じ乾いた鈴の声がする。
 外に出てから、ロストはアレンの顔を見て聞いた。

「満足?」
「満足。有難う」
「神も悪くないだろう?」
「そうだな」

 アレンが少し笑った。可愛い、と、ロストはもう一度思った。