コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.2 )
- 日時: 2011/08/07 16:56
- 名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
- 参照: キミにとって僕もそうでありたい
1「空が見える傘」
朝起きたら雨が降っていた。
雨は気温を下げるから、今の季節はすごくつらい。むしろ雪が降ってくれたほうが楽しいからいい。
「は? こんなのもわかんないとかお前一回小学校からやり直したほうがいいよ」
「しょうがないじゃん、わかんないんだから! それに解くの早すぎて困ってるくらいでしょ?
教えたっていいじゃん」
いつもはうるさい教室も、今は雨が降る音だけが支配している。
時限は今数学で、配られたプリントに皆集中している。話しているのは私たちだけ。
プリントの問題を指差して大声でキツイことを言っているのは前の席に座る佐々木という男子。
言うのは癪なのだけれど実際数学だけよく出来る。確か運動も苦手じゃないはず。関係ないけど顔も良い造りである。
私は数学だけできない。本当に数学だけ苦手だ。
ただそれは英語とか数学以外の点数から見たもので、クラスの最低点には全然落ちていないけれど。
実際【基礎クラス】と【発展クラス】に分けられた数学の少人数のクラスでは【発展クラス】にいるのだから。
だけどこのクラスの中では————私は「出来ない方」に分けられてしまう。
「こんなプリント一分で解けるし。
やっぱやばいよ、お前」
だから、自分がプリントを終えると途端に後ろを向いてくる佐々木に≪教えて≫と頼んだわけである。
今になっては少し後悔しているけれど、どうしてもあっちのほうが問題を解くのは早いので、どうせ後ろを向かれて悪口を言われるのなら教えてもらおうと思った。
「いや…
てか分かんないのをそうやって言ったってしょうがないじゃん。
分かりやすい解き方教えてよ」
「だからこれは、子供の数をXにすると解きにくいわけ。
お前の式からして子供の数をXにしたみたいだけど———
てか「〜をXとする」って書いてないしな、もうダメだな!」
「ああ・・・
解けた! 答え一緒だよね?」
教え方もうまいし、数学はできる。顔もいい。
だけど私があまり佐々木に惹かれないのは、唯一性格が悪いからだろうか。
***
教室から階段を降りて下駄箱に向かう。
透明のドアから外を見ると、今日の朝と変わらずに雨はまだ空から落ち続けていた。
傘立ての代わりになっている青いゴミバケツから自分の傘を取り出そうとする。その時外に誰かが居るのが見えた。
「・・・佐々木?」
今日は朝から雨だったから、傘を持ってきていないはずはないのにどうしたんだろうか。
かばんを頭の上に乗せて真剣な顔をしていた。
「ああ、巴・・・」
私に気付いたようにこっちをチラッと見て、それからその目線は私の手の中にある青い傘に移る。
「その傘、俺のに似てね?
てかお前取った?」
「は? いや取る以前の問題でしょ学年共通の傘立てに入ってたんだから」
「うん分かった、じゃあその傘には俺は入っていいことになるよな?」
にこりと笑って佐々木は手に持っていたかばんを背負い、私が開いていた傘の持ち手に強引に手を重ねた。
冬風で冷たい手が、佐々木の手の暖かさを更に感じさせる。
「俺が特別に持ってやるよ、傘」
いつものクラスにいる佐々木と口調は一緒なのに、自分に頼ってくる姿が今は珍しくて、少し嬉しかった。