コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.3 )
- 日時: 2011/08/07 17:04
- 名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
- 参照: だって無理だよ、君には僕が見えないんだから
2「空が見える傘」2/4
チュンチュンとすずめの鳴く声が耳に入ってきて目覚めた。
すずめが鳴いているということは今は雨は降っていないということだけれど、雨で思い出すのは昨日の学校からの帰り道のことで、少し顔がほころんでしまった。
いつも繰り返している朝ごはんの摂取と決まった服を身に着けて昨日と同じ時間に家を出る。
「今日は午後から雨が降るっていってるわよ?
傘、持って行ったほうがいいんじゃない?」
玄関に続く廊下の向こうから間の抜けたお母さんの声が聞こえた。
お気に入りの水色の花柄の傘。
10秒くらい見つめて、傘立てから取り出す。
……何を見ても思い出すのは、昨日の帰り道のことばかり。
***
小学校の音楽室からブラスバンドの練習している音が聞こえ、学校に着く。
私のクラスの下駄箱にはすでに外履きが多く入っていた。
自分のスペースから上履きを取り出しそのかわりに今履いていた靴を入れる。そのとき何か靴以外のものが下駄箱に入っているのが分かった。
「……手紙?」
質素なただの白の封筒で、ハートのシールも何もついていない。
開いてみるが、それもただの真っ白の便箋だった。
「今日の放課後、旧館二階の女子トイレで待つ…?」
差出人も、何も記されていなかった。
だが女子トイレと言うからには、男子の呼び出しではないはずだ。
それに放課後の旧館のトイレというのは人気/ひとけが少ないし、怖い。
自分が何かしただろうか、
そう思ってみると、
「昨日のことしか頭に思い浮かばないな…」
佐々木はアレで、意外と人気のある男子なのだ。
同級生にも先輩にも、佐々木のことを好きな人は一人は居ると思うしファンがいて当然である。
行きたくないけれど、
たぶん行かなければ行かなかったで
すごく大変なことになると思った。
「しょうがないか…」
手紙を制服の内ポケットにしまい、教室に続く階段を上る。
***
教室にはやはり多くのクラスメイトがいて、少し安心する。
自分の席にかばんを置いてとりあえず座ると、隣のクラスから友達が来ていた。
「佳織いる?」
「うん、来てるよ」
ためらいも何もせずに友達はこっちのクラスに足を踏み入れて、私の隣の椅子にすわる。
その椅子猪俣のだけど…まあいいか。
「何か用でもあるの?」
「そうだよ! 佳織さ、昨日佐々木と一緒に帰ったっしょ?」
「え…まあ、うん。
佐々木が傘無いって言ってて無理やり傘を半分奪われた」
「それ、ファンの子の一人が見てたらしくて、今大変なことになってるらしいよ。
先輩が下駄箱で話してるのを偶然聞いちゃって…」
「あー…そう。
やっぱりね」
「何も無いことを願うけど、一応気をつけなよ?」
「うん」
今日の朝手紙が入っていたことは言わなかった。
絶対にあの子は気にするから。止めるし、先輩に何か言うかもしれない。もしかしたら佐々木にも。
それだけは嫌だし、そうしたらあの子も先輩と敵対関係になってしまう。
怖くて授業も上の空だった。
数学の授業のとき、いつもは佐々木が後ろを向いてくるのに、今日は何も話さなかった。