コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.4 )
- 日時: 2011/08/07 17:02
- 名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
- 参照: 僕の気持ちなんてわからない癖に!
4「空が見える傘」4/5
憂鬱なその日の授業がすべて終わり、終学活も掃除も終わってしまった。
部活の生徒はその活動場所にすぐに行くように、それ以外の生徒は速やかに帰るようにとおなじみの音楽に合わせて放送が流れている。
廊下で会う先輩後輩同級生の数も多い。 たぶん、今の時間に、私にあの手紙を書いた先輩方も旧校舎に向かっていることだろう。
今日心配してくれた隣のクラスにいる友達にはめずらしく一緒に帰ろうと誘われたが、断るしかなかった。断ったら、先輩に呼び出しでもされたの、と問いかけてきたから正直あせった。超能力者ですか、とでも言おうと思ったがそれだとそういうことだとそれを事実として認めてしまうことになるのでやはり言えない。
一年前使っていた一年生の教室の前を通りその頃のことを思い返しながら歩いた。
どうして私は昨日一緒に佐々木と帰っただけなのに先輩に呼び出されなければならないのだろう。好きでもないのに。だってときめいたこともないし。
もう、何もかも理不尽だ。
二年生になってから、そう思うことが多くなったように思える。
***
約束の場所では、すでに3人の先輩がおしゃべりをして待っていた。その先輩の一人は大人しい吹奏楽部の先輩と、もう一人はたぶん五月蝿い陸上部の先輩。もう一人はまったく見たこともない。
きっと3人とも佐々木が好きなんだろうが、同級生でないのだからチャンスはめっきり少ないし、佐々木は家も近くないので放課後にお近づきになるとかは難しい。うーん、ゲームキャラだったら難関なのに。
だからって私に何か言うのはやめて欲しいって、ホントに思う。
だって、私は悪くない。
何もしていない。
佐々木を奪ったわけじゃないし、先輩を否定してるわけじゃない。
それなのに、なんで?
先輩が階段を降りてくる私の足音に気付いて笑い声を止める。
ギラギラとした血走った目が私を捕らえる。
「来てくれたんだ、よかった」
「差出人書かなかったから、少し不安だったの、実はね」
「長い前置きはさておき・・・越智さん、アタシたちが貴方に何を言いたいか分かる?」
「「「佐々木君と付き合っているのなら、今すぐ別れて!!」」」
私の返事も待たずに先輩が大きな声で言う。恋って恐ろしい。だって静かな大人しい先輩もこんなになってしまうのだから。
「あの、私は佐々木と付き合ってもいないし、あんなヤツ好きでもないんですが…
別れろとか言われても最初から付き合っていないのでどうとも…」
しどろもどろにそう言うと、先輩は更に怖い顔をこちらに向けてきた。
「『あんなヤツ』? 佐々木君のことをあんなヤツだなんて、生意気にも程があるわ!」
「それに佐々木君の相合傘して帰ったのなら、好きになって当然でしょう?」
「ということはこの子の言ってることはすべて嘘なのね」
えぇえええ!?
そんなこと言われても困るし…嘘でもないし同級生なんだからあんなヤツって言ってもいいような…
もうこの先輩たちおかしいよ!
「本当のことを言うまで痛めつけないと駄目みたいね?」
「好きなら好きと言ってしまえばいいものなのに!」
「本当のことを言うと私達が怒ると思ったのかしら? もう怒っているのにね?」
トイレの隅に干してある掃除に使う雑巾を先輩は投げてくる。しかも濡らして。水道の水は流しっぱなしのままで水の音が絶えず流れる。
冷たいし、痛い。鋭い冷たさの水は、汚い雑巾に更に殺傷力を増させている。
水で濡れた顔を手でぬぐっていると、前の見えない私に向かって先輩が蹴ってきた。頭をサッカーボールにしようとするような加減の無いキック。
腫れるだけじゃ済まない気がする。脳震盪で倒れて入院…とか。笑い事じゃないし。
佐々木は今何をしているんだろう、今日はバスケ部の日かな?あの小さい背だからダンクシュートも出来ないはず。でも、体育の時間に見た佐々木は誰よりもかっこよかった。
今年はバスケ部にいっぱい新入部員が入ったから、練習ではなく一年生に教えているのかも。
先輩が制服の内ポケットからケースに入ったはさみを取り出して、不敵に笑う。
まさか顔を切るわけではないだろう。スカートの裾?足?
頭を持ち上げられて、10秒くらい経ったのち、勢いよく下に落とされた。鈍い痛みを感じる。
床を見ると黒い線が散らばっていた。あわてて髪を触ってみると、あったはずの髪の毛がない。持ち上げられたときに切られたんだ、きっと。
ねえ佐々木? 今何してるの?
無理だろうけどさ、
助けに来てよ
待ってるからさあ?
いつの間にか願ってしまってる。
自分の心に聞いてみる。 私は本当に佐々木のこと好きじゃない?
じゃあ嫌いなの? 嫌いじゃないよね、好きなのかな? わかんないよ・・・
そのとき、大きくドアが開く音がした。
後ろを向いている私には小さい人影と、声しか聞こえなかった。
「何やってんの?」
いつでも思い出せるあの声。憎たらしいような、でも嫌いになれないこの声。
走馬灯のようによみがえる佐々木の顔が、私の涙腺を刺激する。 本当に助けに来てくれたの?
「まあ旧校舎は大体誰も来ないしな。今は調理実習の時期でもないし、パソコン部は今日は休み。技術は最近ペーパーテストだから部屋は使わない。
・・・だからって、後輩をここで苛めるのも、どうかと思いますけどね? 先輩?」
漫画の中から飛び出したような、恥ずかしい台詞を吐く佐々木。
思い出の中に、またひとつ佐々木の顔が増える。
「今すぐ僕が先生を呼び出したら、部活停止どころの騒ぎではなくなるでしょう。退学もありえるかもしれません。
それに、この馬鹿の母親はすごい人でしてね、貴方達の家庭から大金を奪っていくでしょう。
・・・今更やったことの大きさに気付きましたか?」
そこで佐々木は一回ため息をついて。
「僕は先輩たちのことを好きではない。今までもそうだったし、これからも好きになることはありえないでしょう。
後輩いじめなんて最低だし、それ以上に好きな人に好きだと言わないで自分はあの人のことを好きだとか…自分のものだというように振舞うとか…はっきり言って、大嫌いだ。
そんな人たちのことは好きになれない。 分かりますよね?
僕のことは諦めてください。できるなら違う学校に移ってください。それができないならこのことは無かったことにして、誰にもこのことは口外しないでください。
……お願いします」
そして体を半分に折った。
先輩は逃げていった。階段を急いで上っていく音が大きく聞こえた。