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Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.6 )
日時: 2011/08/07 17:18
名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
参照: 僕が髪を切った訳?キミ、それ知ってどうするの?

5 「空が見える傘」5/5 

昨日家に帰ってから、両親には何をやったのかと問い詰められ、お姉ちゃんには呆れられた。
髪は不自然に切られていたので応急処置としてお母さんに切ってもらった。綺麗に伸ばした黒髪も、今じゃあただのショートカットだ。


学校には、はっきり言って行きたくなかった。
クラスの皆は私が先輩にやられたってことは誰も知らないけれど、今は一人でいたい。
それに、隣のクラスの友達にも心配はかけたくない。
少し怪我が治るまで、家にいたい…とそう思ったが、それを親が許すはずもなく。
先輩にやられたことを知ったら激怒して私が転校しなければならなくなりそうなので、嘘をついて自分でやったと言った。
あきらかに嘘だと思う言葉だけれど、たぶんこのことは先生も知らないし学校に問い詰めても大変になるだけ。だから今は嘘でごまかしきろうと考えた。


転校したくないのは、佐々木と離れてしまうから?



***


頭がガンガンして痛くて、朝も早く起きてしまった。だから少し早めに学校に行った。
野球部の練習している前も通りたくなかったので、それが始まる前、七時半に学校に着くようにした。
先生に何故こんなに早いのか問い詰められたくなかったので、静かにそろそろと教室に入る。
私は誰もいないと思っていたので、何も考えずに教室のドアを開けたのだが。

教室にはもう先客がいた。
窓から外を眺める佐々木が。

「あ、やっと来たか」
私の顔の傷を見ても髪を見ても佐々木はそのことについては何も言わない。ただ微笑んでいた。
「な、なんでこんなに早く来てるの?」
昨日のことを話すのもいやだったので、とりあえず話題を振ってみる。
「それはこっちの台詞だよ」
そう返された。

背負っていたかばんを机の横にかける。
そして自分の椅子に座る。
そうすると佐々木も私の前の席の椅子に腰掛け、後ろを向いた。
こうしてみると、数学のあの時間が戻ってきたような気がして少し切なくなる。

「今日、来ないかと思ったよ。
 昨日、あんなことがあったし」

「ああ…まあね。来ようか迷ったけど、来た」

「来てくれてよかった」
小さい声で佐々木が言った。丁度車のエンジン音がその言葉と重なって、私には聞き取れなかった。

「昨日のこと、俺のせいだよな、ごめん。本当にごめん。
 先輩にああいう人がいると思わなかったし、巴にその矛先が向くとも思わなかったから…」

「ううん、佐々木のせいじゃないよ!
 私が手紙もらったのに、呼び出されてのこのこ出てきたのが悪いの」

それから沈黙が続く。
私は窓から見える青い空と白い雲、まだ建築途中のスカイツリーを眺めていた。今までゆっくり空を見つめたことなどなかった気がする。
今日は何か予定があったっけと思いだして、連絡帳を取り出そうとする。その瞬間、佐々木が声を出した。

「次はもっと早く助けに行くから」

「……え? 何が?」
いきなりのことで何が何だか分からない。助けに?私を?
それから佐々木はふてぶてしく横を向いて言う。

「だ…から。
 また昨日みたいなことがあったら、俺がもっと早く助けに行くからってこと!」

「ええ?」

「なんで分からないんだこの能無し女!」

太陽の力を借りずに佐々木は顔を赤く染めて言う。
茶色の目がまっすぐに私の顔を捉える。

でも一呼吸おいて、佐々木はひとつため息をついてから椅子から立ち上がった。

下を向いてドアへゆっくりと歩いていく。取っ手に手をかけたとき、小さな声で言った。





「好きだから」                                                           fin?