コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.10 )
- 日時: 2011/08/09 20:57
- 名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
- 参照: 大丈夫だよ、ほら、笑えてるでしょ?
「タイムリミットはあと少し!」 2/4
まだ大会一週間前なので、今日もまた体育館で練習がある。
例のごとく私も練習に行かなきゃならないし、スポーツドリンクも作らきゃならない。
そしてまた、先週のあの場所で水をくむ。
外は本日も晴天なり。
梅雨はもう明けたのか、ここ一週間は晴れた日が続いている。
気温も右肩上がりで、土埃を巻き上げながら練習している野球部は、しきりに手で汗をぬぐっているのが見て取れる。
瀬戸は、木の影で涼しい校庭の隅に居た。
水を水筒に入れながら、透明のドアを透かして加瀬を見る。
ここからじゃ、声なんてかけられない。見ててもバレないっていう利点はあるけれど、そんなのよりも、話したい。
悲しそうな表情で練習を見ているのが見て取れる。太陽の光を浴びて練習している部員とは違い汗もたれていない顔。
それが全部、私に何か訴えてきて、何かを込みあがらせた。
ここから眺めてたって、何も、それこそ何も変わらないから。
だから、だから、だから————
瀬戸が自分から、こっちに歩いてきた。
先週と同じように。
だるそうだけど、少し赤い顔をして。
棒立ちになっている私を瀬戸は横目で見て、出しっぱなしの水を私の足をどけて止めた。
「いい加減、目ぇ覚ませし。
つーか水の無駄だから。馬鹿か」
それから目を背けて。
「べ、別に俺、練習見てるだけで体動かせねーし暇だから。
お前も練習できないなら、別に、は、話せる、し…さ」
それでもポカンとしている私に。
「だから!
練習抜けられんなら抜けて、一緒に話すかって言ってんの!」
いつの間にか近くにあった瀬戸の顔が真っ赤だ。
丸い目が、今はまっすぐこっちを見ていた。
隣にある冷水機がうなり声を上げる。めずらしく、道路を車が通る音が聞こえる。
勇気なんか、私はまだ全然出せないけれど。
今日は瀬戸に、少し甘えて。
大切なことは、またこれから言えばいいから。
「…うん。
先生に言って、練習抜けてくる!」
「おお。
じゃあ俺も抜けるから。
……坂の途中の公園で待ってて」
あわてて持った水筒の中で、水が揺れる音が聞こえた。