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Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.11 )
日時: 2011/08/09 21:11
名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
参照: 五月蠅いな、そんなこと、僕が一番わかってる。

「タイムリミットはあと少し!」3/4


先生は何かを察したのかすぐに首を縦に振ってくれ(真剣な顔だったから?)、部長は何も詮索しなかった。友達には練習中だったから何も言えなかったけど、何かを思ったのか二人ともニヤニヤ笑った顔が見えた。



公園のベンチにはもう、加瀬がうつむいて座っていた。
私が入口から入ると、顔を上げる。手招きも何もなかったので、私はそのまま加瀬の隣に座った。
上で鳥が鳴いている。蝉はまだ、登場していなかった。
どちらも口を開かずに、一分くらい間が訪れる。

話すこと、それは私自身が良く分かってるはずだけれど、簡単に口に出せない。
瀬戸も、私が見つめていたから誘っていたんだろうか。だから話し始めないのか。
すると。

「あのさぁ、
なんで何も言わないわけ?
何か言葉発しろよ」

瀬戸が目線を上に向け、言葉を紡ぐ。
その勢いで立ち、近くの自動販売機でコーラを二つ買って、持ってきた。

「おごってやるから、飲めよ」

うなずき、差し出されたコーラを受け取る。日差しが痛いけれど、コーラの冷たさが喉を冷やす。

「今から話すこと、バド部の奴らとか他の奴には言わないで欲しい。
学校中に広まると、いろいろと面倒だから」

「じゃあ、なんで私なんかに話してくれるの?」
疑問に思う。私なんて、そんな瀬戸にとって重要な存在じゃあないはずなのに。

「・・・なんでだろうな?
今までクラスに居ても、お前なんかクラスメートの一人としてしか見てなかった。
でも、何かが・・・変えたんだよ」

そして瀬戸は、顔を私のほうに向けた。

「うまく話せないかもしれない。
良く分からないかもしれない。
でも、ちゃんと金澤に聞いて欲しいんだ。
…大事な、ことだから」

「分かった。
ちゃんと聞くよ。そのかわり、私もちゃんと話すから」

目を見てはっきり答えた。
決意と、感謝をこめて。

「最初に謝っておくけど、俺は明後日の今頃にはこの世界に居ないかもしれない。
ていうのは、まあ病気だからなんだけど」
そう言い、左の胸に手を当てる。
「心臓の、病気っていう感じ。
医者が一生懸命病気について説明してくれたけど、そんなの聞いてなかったよ。いいや、聞けなかった。
これから自分はどうなるのか。留年してしまうくらい、入院生活が続くかも。その前に、死ぬかも、ってね。
それまで自分には特に大切なものも生きていたい理由もなかったけれど、やっぱり死ぬのは怖かった。
それで、考えてみたんだ。
外を見て、この景色を見られるのは今しかないかもしれない。
もうすぐ自分は居なくなるかも知れない。そしたらそのあとのこの世界に何が残るのか。自分は何かを変えられたのか。自分が居なくなった後には何かが変わるのか。
心臓は痛むし、いきなり目の前が真っ暗になって倒れてしまうこともある。
だけど。
自分の命以上に、野球も好きだったから。仲間が大切だったから。
顧問の先生には自分のことを話してあったけど、見学は許可してくれた。皆は何もしらないよ、俺の体のことなんて。
…誰かに、話したかった。
自分のこと。皆が夏休み明けに登校してきて、俺の席には俺が居なくて、皆は自分の顔なんて覚えてないのにもうこの世にはいないとか。
そんなの嫌だって思ったんだよ。
……重い話でゴメンな、俺から連れ出したのに、ずっと黙ってて、それもごめん」

そこで、言葉を切って。

「金澤には、俺が居なくなった後でも、俺のことを覚えていて欲しい。
ただ、それだけだから。
これからも、このままで学校に行って、そのまま大人になって」

上を向いた顔が涙をこらえているのが分かって、私も泣きだしてしまいそうだった。
それに、ただ、私は何もしていない瀬戸に訳を聞きたかっただけなのに、それがすごく大変な理由だった。
私にできることなんて、全然、ないじゃないか。
瀬戸のその願いはかなえてあげられるけれど。
瀬戸がこれからも必ず生きていけるようになんて、私にはできなさすぎて。

「聞いてくれて、ありがとう。
でも俺、もう病院行かなくちゃならないからさ。
じゃあ」

それだけ言って、走って公園を出て行った。
私は何も言えなかった。
ただうなずくことしかできなかった。



なんで私じゃなくて、
瀬戸が病気にならなくちゃいけないの?

私には



何が、できる?