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Re: 【オリジナル短編】赤い糸を結び直して ( No.12 )
日時: 2011/08/09 21:29
名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: fKZGY6mA)
参照: もういなくなればいいよ、バイバイ


「タイムリミットはあと少し!」4/4

昨日のことで頭がいっぱいだった。
今まで何をしていたのかさえ、覚えてられないほど、瀬戸のことしか考えられない。
制服に着替えて通いなれた道を歩き、学校へ向かう。
教室へ入るとやはり瀬戸の席には何も居なかった。居たのは朝の薄い光だけ。

このままじゃ、授業を受けたって頭に何も入らない。
でも、学校に来た以上このまま外に行ったって叱られるだけだ。

今まで私は何も一生懸命にしてきていない。
せめて、この思いは、無視したくないから。

職員室に走り、ドアを開く。
担任の先生を呼ぶ。
先生にわけを話し、瀬戸の病院の場所と手術の時間を聞く。
先生の驚く表情と、安堵の表情。
手術の時間は、今日の午後5時からだった。

(その時間なら、授業を受けてからでも間に合う)





部活はあったけれど休んで、チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した。
皆には悪いけれど、今日掃除できない。ゴメンね。心で手を合わせる。
急いで発車直前のバスに乗り、病院へ向かう。
息は苦しいけれど、加瀬の痛みなんてこんなもんじゃない。それが、私を走らせた。

その中で、気付く。
私は本当に、瀬戸が好きなんだなって。
大切に思ってるって。
幼稚園の頃の初恋も、小学校の時の片思いも。
ずっと何もできなかった私だけど。
今回だけは、相手が居なくなっちゃうかも知れないから。
その時まで、私の気持ちを知っていて欲しいから。

病院に到着する。
受付で瀬戸の病室の番号を聞き、お礼を言って、エレベーターに乗り込んだ。
小児科の病棟では、明日の七夕のためのお願いの短冊を書いている子たちが居た。
飾ってあった笹の中に、瀬戸の願いごとを見つける。

『まだ、生きられますように』




病室の中で、瀬戸はベッドに静かに居た。
点滴のパックも、もうなくなりそうだ。時計を見ると、今は4時。

「良くここが分かったな。
まあ先生に聞けば教えてくれるか。あの先生だし」

私のほうを見ないまま、そう言う。
少し自嘲的な笑みを浮かべて。

「まだ、何か俺に言うことあるの?
昨日は、何も言わなかったくせに」

昨日は勇気が出せなかっただけなのに。
今更そんな厳しいこと言わなくてもいいのに。

ベッドの横に歩を進める。
できるだけ、瀬戸との距離を縮めたい。

「昨日は、何も言えなくてゴメンね」

前置き、長くなっちゃうかも知れないけど、ちゃんと聞いてね。
私が聞いてあげたように。

「瀬戸はきっと、私が瀬戸を見つめてたから公園に呼んでくれたんだよね?
私、何もできなかった。うなずくことしかできなかった。
ずっと分かってたのに。
言う勇気が出せなかった。
こんな時だけど、ごめん」

学校と同じ色の黄色のカーテンを風が揺らして。

「私、瀬戸が好きだよ」

一瞬瀬戸は、驚いた顔をしたけれど。

「今俺、金澤に言われたこと嬉しいって思ってる。
これって、俺も金澤のこと・・・好き、ってことだ」

それからベッドの中から瀬戸が動いて、スリッパを履き、立った。
いつの間にか、顔の隣に瀬戸の顔があって、背中には手の感触があって、え、手?
温かさを感じる。抱きしめてくる、力も感じる。死んだら、こんなこと、できなくなる。

「俺、頑張るよ。
これから金澤といろいろしたいことがいっぱい浮かんできた。
一緒にキャッチボールもしたい。プールで一緒に泳ぎたい。夏も秋も冬も春も、一緒に過ごしたい。
祈って、待ってて。
絶対生きるから」

耳元で声が聞こえて、少しびっくりするけれど、力を抜いた。

「私、ずっと待ってる。
瀬戸がまた野球してるとこ、絶対見るから」




金澤へ

医者の話を聞かなかったせいで、少し勘違いしてた。
俺は確かに病気だったけど、そんなに重いものでもなかった。
手術で失敗しても、死ぬ確率なんて10%もなかった。
でも約束したおかげで、これからは一生懸命生きる気力が湧いたから、それは病気に感謝。

無駄な涙を流させちゃって悪かった。
(お前が泣いたって思ってるっていうのは自意識過剰?)

二週間後位には退院できると思うから、学校で待ってて。

瀬戸より


あの日の後に、先生からこんな手紙をもらった。
適当な字がある紙には私の涙の染みが見えて、少し恥ずかしくなる。

でも、良かった。
二週間後には、また、瀬戸に会える。


おとといのコーラ、ありがたく受け取ったけど、あの後の学校で瀬戸が全然お金を持ってないことを聞いた。
一時期何かにお金を全部使ってしまって、100円だって大事にしていたそう。


これから何か飲む時は、一つのコーラを二人で飲もうと言ってくれるだろうか。


                                                  HAPPY・END?