コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: どこにでもありそうなありふれた日常。 ( No.13 )
日時: 2011/08/22 22:05
名前: るきみん (ID: JryR3G2V)

      その5

・・・・・
今のところは、大丈夫らしい。
廊下のほうはシン・・・と静まり返っている。窓の外で鳴くセミの声以外は何も聞こえない。学校の中はひんやりと涼しいが、俺の背中はいやな汗でぐっしょりだ。まったく、朝夏はもう少し自分の戦闘力を抑えた方がいい気がする。まあ・・・・・あんなことを言った俺が圧倒的に悪いのだが。で、でも・・・俺の脳ミソじゃあれが限界だったんだよ。うん。もう女の子は傷つけない。約束しよう。そうだ、指切りしようか。ゆーびきーりげんまん・・・
カチャ
明「!?」
え!? 今確かに、ドアの開く音がしたような・・・?
一気に心臓の鼓動が早まる。俺は小さく縮めた体をさらに小さく縮める。

カツ、カツ、カツ

ゆっくりとこちらに近づいてくる濃厚な死の気配・・・・・

ガタガタガタガタガタガタ
マ、マナーモード明・・・

こ、こんなネタやってる場合じゃない!
な、なにか・・・策はないか。

カツ、カツ、カツ

どんなに考えてもいい案など浮かんでくる筈もなく、ただいたずらに時間が過ぎていく。足音はもうすぐ近くまで来ている。もう、死を覚悟しよう・・・お母さん、先立つ不幸をお許しください・・・・ああ、俺の人生、短かったけど・・・・・・楽しかったなぁ・・・でも、死ぬのはちょっと怖いかも。

???「明さん・・・ですね。迎えに来ましたよ」
ああ、とうとう天使が迎えに来たよ・・・・・ん?
???「火燐さんが呼んでますよ。いきましょう」
明「・・・あれ? 天使じゃない?」
???「何を言ってるのですか?私は天使ではなく川峰美奈穂かわみねみなほっていう親からもらった名前があるのです」
明「ああ、そうですか・・・」
そこにいたのは、朝の受付にいた先生だった。おお、俺の死刑は少し先延ばしになったようだ。少し、だけどね。
安堵感と脱力感でへたり込んでいると、川峰さんが手を貸してくれた。
明「・・・ありがとうございます」
お礼を言ってその手を取り立ち上がる。
川峰「明さんが来るのが遅いから、火燐さんがとてもイライラしてましたよ。早く行ってあげてください」
明「はい、そうさせてもらいます。でもなんでここが分かったんですか?」
川峰「それはね・・・」
川峰さんは外を指差す。指差した先に目をやると、新校舎が見えた。そして川峰さんが指差しているのは屋上・・・
明「え・・・じゃああそこから火燐さんが俺を見つけて川峰さんに連れてくるように指示して、ここに来たと」
川峰「ええ、そういうことです」
明「じゃあ、ここがどこだかも知っていると・・・」
川峰さんはニッコリと微笑むと、


川峰「まず、あなたがなぜ女子更衣室にいるのか聞かせてください」

       ☆

川峰「告白してスカートめくったら女の子に追いかけられた? あなたは頭がおかしいのですか?」
ただいま絶賛説教中☆
これなら逃げていたほうがぜんぜんよかったかもしれない。ボコられるけど。
明「はい、仰るとおりです」
川峰「だいたい、なぜ告白しといてスカートをめくるのですか。なぜそこから逃げるという発想が生まれてくるのですか」
そ、そんなに真顔で言わないでください。立ち直れなくなります。
明「いや・・・それは、その、こうでもしないと朝夏に隙が生まれないので・・・」
川峰「・・・よく解りました。あなたは女生徒を誘って女子更衣室で事に及ぼうとしたが逃げられてしまってハアハアしていた変態という訳ですね」
明「全然ちげぇ!!」
1ミリも合ってねえよ!
川峰「でも、悟りを開いたような顔をしながらカタカタと小刻みに震えていましたよ」
明「それは・・・! ぐぅ・・・!」
否定・・・できない!
川峰「小刻みに震えている様子はゴキブリを連想させましたよ」
明「え!? もうそれ悪口じゃない!? さすがに酷くない!?」
川峰「変態がなにを言うのですか。火燐さんがなんであなたを気にかけるのかが分かりません」
明「・・・仰るとおりです」
川峰「もう行きなさい。火燐さんが待ってます。あと、このことはあなたの中学校には隠しておきませんよ」
明「え、いいんですか・・・って伝えちゃうんですか!? 一瞬いいことを言っているように聞こえてしまった!」
川峰「変態を擁護する意味はありません」
明「鬼っ!」


俺は女子更衣室から出ると、トボトボと新校舎へ向かう。先ほど女子更衣室から出る際にもらった川峰さんの手書き地図を片手に(案外優しいところもある)新校舎に入る。この学校は三階建てでそれほど広くないからそこまで迷うこともなく二階までいけた。まったく、心境が違うと視界がずいぶん広くなる気がする。二階から三階へ上る階段もすぐに見つける。朝夏は今のところ見ていない。だが、あいつは俺を探しているだろう。早く屋上に行かなければ見つかってしまう。
こんなフラグじみた事言ってるとダメだな。見つかっちゃう・・・

朝夏「あーきら♪」
ビクゥ!
バカ! 俺のバカ!
俺の後ろから甘い声が聞こえてくる。全身が硬直して動かなくなってしまう。まるで脳が死を覚悟したように。
朝夏「あーきーらぁ、も〜探したんだからぁ・・・モウニゲナイデネ?」
動け! 俺の足超動け!
だが俺の足は歩くことを忘れてしまったかの様にぜんぜん動かない。その間も朝夏は後ろからゆっくり近づいてくる。それがプレッシャーになって更に筋肉が硬くなる。
・・・・・リラックスするんだ・・・・・・。
思い出せ、朝夏の・・・・・パンツの色を。

フッ

途端に足が軽くなる。体から無駄な力が抜ける。走れる! 走れるぞ! 俺の脳ミソナイス! 煩悩まみれだな!
明「GO!」
ダダッ!
足が軽い! いつもより早く走れる! このまま、屋上へ・・・
朝夏「まってよ〜♪」
・・・後ろを向く勇気は俺にはない。ビビリなんて言わないでくれ。今朝夏の顔見たらまた筋肉が硬直しそうだ。
屋上への階段に向かう廊下を駆け抜ける。階段はもうすぐそこ。ゴールはすぐそこだ。正直階段を上がりきるまで体力が持つか心配だが、やるしかない。
朝夏「なんでにげるの〜?」
それはお前が一番よく分かっている筈だ! だからどこかに行ってくれ!
俺が階段を上がり始めると、すぐに後ろから階段を上がる足音が聞こえてくる。ヤバい!追いつかれる!
でも・・・ここまできて、ここまできて追いつかれる訳にはいかない!
朝夏のスカートまでめくって、川峰さんに変態だときめつけられて、ここまで犠牲を払ったのにここで負けるわけには・・・いかない!!!

階段を半分まで上がり、折り返す。朝夏も少しだけそれに遅れる。思い切り手を伸ばされれば届いてしまいそうな距離。
朝から自転車を漕いで走り回って硬直して・・・色々ありすぎた俺の足はとっくに限界を超えている。だがここで止まる気は毛頭無い。

残りの階段は三段程度、ドアノブに手が届きそうだ。ここまできたらいくしかない!
俺が屋上のドアに向けて手を伸ばすと、朝夏も俺を逃がすまいと手を伸ばす。朝夏の手が俺の背中を掠める。俺は捕まるまいと体を前に思い切り倒す。地面が近くなり、体勢を保つのが難しくなる。足は相変わらず悲鳴を上げているが、関係ない。もう少しがんばってくれ。
明「・・・うおおおおおおおおお!!!」
まだ、童貞なのに死んでたまるかぁ!!