コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: どこにでもありそうなありふれた日常。 ( No.14 )
日時: 2011/08/22 22:07
名前: るきみん (ID: JryR3G2V)

      その6

人間、極地に立たされるとすごい力を発揮する。
例えば、野球選手が試合で打者としてバッターボックスに立ったとき、150kmにもなるボールがゆっくり見えたり。
例えば、バスケットボールの選手がシュートを打つとき、ボール一個分ぐらいのリングが大きく見えたり。
なんて名前だったか・・・かなり昔にテレビで見ただけだからほとんど覚えていないが、脳の錯覚だとかそうではないとか。
でも、俺が一つ言える事は、いつも自分が見ている景色が違うと、気持ち悪いと言うことだ。

視界の中のすべてがスローになる。まるで今までずっとそうだったかのように、それはもうナチュラルな感じでスローになる。
音がすべて遮断され、自分だけが違う世界に飛ばされてしまったのではないかという錯覚に陥る。
が、目の前にある無機質な扉や限界を超えて休みたいと叫ぶ俺の足が今まさに死の淵に立たされていることを物語っている。
いっそこのまま後ろで俺を追いかける般若、もとい朝夏に殺されてしまった方が楽かもしれない。足はもう限界すぎる。今すぐ休みたい。目の前にあるはずの扉が遠い・・・

スローモーションの世界の中で、俺はもう一度自分の体にムチを打つ。最後に一度だけ、がんばってくれ、俺の体。
この中では時間が何倍、何十倍にまで感じる。実際はたった1秒かもしれない。それとも本当に長い時間なのかもしれない。
だが今の俺にそんなことは関係ない。今はただ目の前にある重そうな鉄扉へ向かうのみ。
俺は前のめりの体勢を保ったままドアへと一直線で走る。そのままドアノブを回しながら肩で一気に押す。
肩に鈍い痛みが走る。しかしそんなことこの際気にしない。外の景色が一気に広がった。しかし俺の脳ミソは色を識別する余裕も残っていないらしく、空の色がモノクロになっている。まあ景色など後で楽しめば良い。
屋上にはたどり着いた。だが、これだけでは朝夏にフルボッコにされてしまう。それを防ぐためには、ドアを閉め、鍵をかけるしかない。

明「・・・・・・!!」
踏ん張るための声を上げるが、神経が研ぎ澄まされた今の俺には聞こえない。
息を荒げながらドアを思い切り閉める。
閉める瞬間に見えた朝夏の顔は、鬼という言葉がよく似合う顔だった。
鍵を閉めてひと段落着く。やっと、やっと朝夏を出し抜くことができた。

安心すると、今までの疲労がどっと溢れ出てきた。
足の痛み、周囲の音、景色。そして、時間が戻ってくる。
不意にガクガクと足が震えだしその場に座り込む。それだけでは足りず、大の字で寝転ぶ。

ミーンミンミンミンミンミン・・・
頼んでもいないのにセミが大合唱を俺にプレゼントしてくれる。全く嬉しくない。だが、悪い気分ではない、かな。

火燐「や〜っときたか〜、待ちくたびれてアイス4個も食べちゃった」
現れたな・・・悪の根源・・・はあ、はあ・・・ヤバい・・・疲れた・・・

〜小休憩〜

火燐「ふぅ〜ん。じゃああんたはあの後幼馴染に見つかって追いかけられてたんだ」
明「はあ、はあ・・・そういう、こと・・・です・・・はあ、はあ」
火憐「ちょっと、そんなにはあはあしないでくれる?気持ち悪い」
このやろう、誰のせいだと思っていやがる。あとちょっと傷つきます。
火燐「まあいいわ。それで、ここに来てくれたってことは入ってくれるんでしょ?美少女研究部」
明「まずは、活動内容を、聞かせてください・・・はあはあ・・・」
場合によっては警察の方を呼ばなくては。
火燐「え〜っと、ゴミ拾いや老人ホームへの訪問などの福祉活動とか?」
明「嘘だ!絶対嘘だ!なんで美少女研究部って名前で福祉活動なんだよ!そしてなぜ疑問系なんだ!」
ぜえ、ぜえ、ぜえ・・・
あんまりツッコミをさせないでほしい・・・こっちはすごく消耗してるんだ・・・
火燐「ダメ?」
明「そういう問題じゃなくて・・・」
この人と話してると途轍もなく疲れる気がする。
火燐「ふんふん、で、入ってくれるでしょ?」
明「活動内容は・・・まあいいです。とりあえず俺はこの部活に入らないことを伝えに来たので」
火燐「え!?私が誘ってあげてるのに!?」
明「はい」
これ以上面倒事に巻き込まれるのは御免だ。桜井先輩には悪いけど俺は普通が好きなんだ。
明「そういう事ですので・・・俺はもうかえりま・・・」
火燐「いいのかしら?」
・・・・・な、何を企んでるんだ・・・怖い。
桜井先輩はポケットをゴソゴソといじって、ケータイを取り出すと、画面を俺のほうへ向ける。
火燐「これなーんだ?」
なんだ?・・・・・・
窓の開いた部屋の中で、うずくまってカタカタしている男子がいた。
明「!?」
火燐「おお〜っと、あんまり見せちゃダメだね」
反射的に桜井先輩のケータイを取ろうとするが、ギリギリのところで手を引っ込められてしまう。
明「そ、それは・・・?」
火燐「ん〜なんだろうね?私がたまたま景色を眺めていたらたまたま女子更衣室と思われる部屋の窓が開いていてそこにたまたま男の人がカタカタ震えていただけ。それがなにか?」
く、くそ!まさか写真に撮られていたなんて・・・迂闊だった!ま、まさか屋上から激写するなんて・・・!
火燐「ん〜これどうしよ?まあ女子更衣室でカタカタしてる変態なんてどうせ悪いやつだから、この写真を現像して屋上からバラまこうかな」
明「ま、まって・・・」
火燐「ん? なに? 明くんは美少女研究部には入部しないんだからもうここには用ないよね? もう帰りなよ」
こ、このやろう! 外道!
明「わかりました! 入部します! 入部すればいいんでしょう!?」
火燐「ええ〜?どうしよっかなぁ」
うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! この腹黒やろう!! 鬼!! 悪魔!!
明「にゅ、入部させてください・・・・・お願いしす・・・」
俺は土下座しながら桜井先輩に頼む。
火燐「まーまー必死だこと。そんなに私のつくった部活に入部したいの?全く、やっぱり私のカリスマ性ってすごいわね」
ぐ、ぐぐ・・・我慢だ・・・・・
火燐「いいわ、入部させてあげる。喜びなさい」
明「あ、ありがたき幸せ・・・」
火燐「ふふっ、それじゃあ、来年の入学式の日を楽しみにしてるわ」
明「え・・・あの写真は・・・」
火燐「? ああ、あの変態の写真か。あれは私が責任を持って預からせてもらうわ。次あの変態があんなことをしたら今度こそばらまいてやるんだから」
・・・・・・
火燐「それじゃ、私そろそろ行くね。あんまりあなたに構ってる時間無いの。そこ、どいてくれる?」
桜井先輩はドアの前で無様に放心している俺を横に押しやると、鍵を開けて校舎内へと姿を消した

・・・・・・ああ、もう終わったなぁ。
サヨナラ、俺の日常・・・・・・

朝夏「なにいい感じに終わりにしようとしてるの?」
明「!?」
先ほどの半発狂状態から抜け出したらしい朝夏が、いつもの様に眉間にしわを寄せて腕を組んで立っていた。
・・・・・・やべぇ、すっかり忘れてた。
朝夏「いい度胸よねぇ、私に恥を掻かせるなんて・・・・・覚悟はできてるんでしょう?」
明「い、いや! 待ってくれ! 話せばわかる! 話せばわかるから!」
朝夏「そういえば、あんたあたしを紹介するときもバカバカ連呼してたわねぇ」
明「・・・・・・なぜそれを!?」
朝夏「じゃあ、今度こそ終わらせてあげる・・・・・・・バッドエンド・・・いえ、デッドエンドで」
明「い〜〜や〜〜〜!!!!!!」