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Re: 〜*日替わり執事*〜【第6話更新】 ( No.17 )
日時: 2011/09/18 21:32
名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: lIcPUiXw)

第7話『最後の一歩まで走り抜こう』

トーストを口に入れながら走るのって、案外苦しいのね。
足はフル回転しているのに、ほとんど回転していない頭はのんきにそんなことを考えた。急いで走っているから、トーストが落ちなければいいなぁとか。曲がり角はゆっくりと、人が来ないのを確認してから曲がろうとか。やっぱり送ってもらった方が良かったかなぁとか。

「……おい、なんでそんなにのんきに走ってるんだよ」
「いや、大丈夫大丈夫。私の頭はいつものんきに我が道を走っているから」
「俺はお前の足の速さを言っているんだよ!……いや、今となってはお前の頭の方が心配だけどな」
「って、酷い……あぁ、なんだ。浅倉君か」
「お前の方が酷いって」

いつの間にか私の隣を走っているのは、浅倉君だった。走っているのに行き一つ乱れていない。そういえば、運動が得意とか聞いたことあるかも。
それよりも、私は気になることを聞く。

「あの、花ちゃんは……?」
「ああ、あいつならもう学校行った」
「そうなんだ」

花ちゃんとは、浅倉君の双子の妹。あんまり似てないけれど、明るい性格で物怖じしない性格で、私の友達でもある。すでにアメリカの大学を卒業した私がクラスになじめなかった頃、仲良くしてくれたのは花ちゃんだ。

「じゃ、俺たちは仲良く遅刻でもするか」
「……へ?」

その言葉に反射的に時計を見る。…………ち、遅刻っっ!!



「……ぎりぎり、だな」
「よ、良かった……」
「間に合って良かったな」
「他人事のように言わないで!!」

私立雨宮高校の校門でぜいぜいと息を上げる。校門が生徒会長さんの手によって閉められる前に、なんとか滑り込むことに成功した。

「えと、これは遅刻になるのでしょうか……?」

恐る恐る生徒会長さんに聞く。雨宮高校の生徒会長さん、龍巳涼さんは、とても気むずかしくて有名。それ以前に、ルックスが良いということで女子生徒を魅了している。成績優秀な上に、鋭い切れ長の目を黒縁眼鏡で覆っているところが、なんとも耽美……らしい。

「……規則的に、校門が閉まる前に校内に入ったから問題はない」
「そうですか……。よかった」

その言葉に思わず安堵をする。けれど、生徒会長さんは隣にいる浅倉君に目を向けた。

「ただし、君は別だ。遅刻常習犯だからな」
「遅刻常習犯と言っても、今日は遅刻して無いじゃないですか」
「している。………ほら」

そう言うと、龍巳会長は浅倉君の足元を指さす。つられて私も目線をさげる。
————浅倉君の足は校門より外にあった。

「…………」
「……ちぇっ、なんだ。遅刻かよ」

悪びれもなくそうつぶやくと、浅倉君は私に目で「早く行け」と言った。
えと、え、良いの?

「月曜日から遅刻とは良い度胸だ。生徒会室に連れて行く。花屋敷さん、あなたは教室に早く来なさい」
「は、はいっ」

龍巳会長の有無を言わさない威厳のある言葉に、思わず返事をしてしまった。
私は心の中で浅倉君に謝ると、急いで教室へと向かった。


「あ、姫華ちゃん!」
「花ちゃん……」

教室に行くと、真っ先に花ちゃんが私に飛びついてきた。私より少し背が低い花ちゃんは、ちょうど私の胸の所に顔を埋める。
く、くすぐったい……。

「あのね、花ちゃん。実は浅倉君、生徒会長に捕まっちゃって……」
「え?ああ、蓮なら大丈夫だよ。どうせいつものことだし」
「そ、そうかな……?」
「そうだよ」

案外けろっとしている花ちゃんに、毒気が抜かれる。
花ちゃんはとてもしっかり者で、蓮君の双子の妹は言え正反対の性格だ。そのため、こうやって同い年の兄のことなんか心配していないようで心配していないという、なんとも分かりづらい。
その性格故に、友達を何人も作って誰ともうまく接することが出来る。その花ちゃんの性格が時々本当に羨ましく思う。

「そういえば、昨日のドラマ見た?主人公の役者さんがさぁ〜」

たちまち花ちゃんの周りに出来た輪に、私は適当に相づちを打ちながら話を聞き始めた。