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- Re: 〜*日替わり執事*〜【第9話更新】 ( No.26 )
- 日時: 2011/10/16 13:26
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: ZoVg1Y7C)
第10話『野次馬というのは本能的に楽しいものが好きな人が集まる、集会のようなもの』
光さんからお弁当を受け取った後、私は好奇心の目を向けている生徒達を見上げた。
男女問わず、私と去っていった光さんの方を熱い視線を注いでいる。ああ、これからあの中に戻っていくなんて、億劫だ。
「花屋敷さん、さっきの人誰?」
「なんか執事服着てなかった!?」
「超格好良かったよねぇ」
「もしかして花屋敷さんの執事だったりするの?」
「っていうか、執事服着ている人初めて見たよ!」
「え、えと……」
校舎に戻った途端、おそらく待ち伏せしていたであろう女子から囲まれた。そして質問攻めに遭う。瞬く間に逃げ場を失い、私は視線を泳がせる。変に女子と視線を合わせたら、しつこく粘られそうだ。
いったいどうすればこの場を去ることが出来るのか模索していると、ふと背中に誰かの頭が当たった。
「あ、すみません……」
「姫華ちゃん!」
「え?」
聞き慣れた声が後からした気がして、思わず振り向く。すると、人の間を縫って息を切らしている、花ちゃんの姿が合った。
小柄な彼女は人の間をすり抜けるのが上手で、ちょこちょことここまでやってきたらしい。全く気づかなかった。
「花ちゃん……?」
「姫華ちゃん、ほら、行くよ!」
「行くって……?」
「教室だよ!こんなところで騒いでたら、会長さんに怒られちゃうよ?ほら」
「へ?」
そう言うと、花ちゃんは私の反対側を指さした。
すると、長身で威厳のあるオーラを放った男子生徒がやってくるのが目に入った。
「何をしているんだ」
「か、会長っ」
「騒がしいって苦情が入ったから来てみれば……。何の騒ぎだ」
まだ騒ぎの原因は分からないらしく、会長は輪の中央にいる私を確認すると、大きなため息をついた。そして、私の腕をつかむ。
…………へ?
「あの、会長さん……?」
「生徒会室に来い。事情を説明してもらう」
なんでですか……。私のせいじゃないのに。
……いや、まぁ根本的に考えたら、お弁当を忘れた私が悪いんだけど、ね。
「……で?どうしてあんなに人だかりができてたわけ?」
「えと、それは……」
むしろこっちが聞きたいですよ。
生徒会室に連れてこられた私は、会長さんのやや厳しい視線を浴びながら、ただ突っ立っているだけだった。
だって、いっぺんこの視線を浴びてみなよ!身がすくむような感じだよ?!
「……まぁ別に良いけど。ただ、今後は騒ぎは起こさないように」
好きで起こしたわけではありませんよ。
というか、少しずるいと思った。私が入学したときは、みんながみんな、白い目で見ていた。どうしてアメリカの大学を出たのに、こんなところに来てるの?嫌味じゃない?家がお金持ちなんだって。へぇ。だったら、冷やかしじゃないの?こんな庶民の学校に来る理由なんて、それしかないもんねぇ。
耳をふさいでも聞こえる声に悩まされ、友達どころかクラスメイトともまともに会話したことはなかった。それなのに、ああやって執事や、気になる人とかが私に接触してきた場合だけ、騒ぐ。
「……ま、慣れたけどね」
「ん?」
「あぁ、いや。なんでもないです。それでは、失礼します」
思わず口に出ていたらしい。私は紛らわすように顔を背けると、生徒会室を後にしようとした。
————が。
「花屋敷さん」
扉を開ける直前で、生徒会長さんに呼び止められた。
思わず後ろを振り返る。すると、妙に大人びた……いや、柔らかく優しそうに微笑む会長さんが言った。
「もし、何か困ったことがあったら相談に乗るから。一人で悩まないでくれ」
「……は、はい」
ちょっとドキッとしたのは、隠せただろうか。
いや、でもね。モテるのは当たり前かって、妙に納得してしまった。
私は会長にお礼を言うと、今度こそ生徒会室を出た。
入るときよりも、いくらかすがすがしい表情で。