コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 日替わり執事【登場人物更新】 ( No.3 )
- 日時: 2011/08/18 21:49
- 名前: 棋理 ◆U9Gr/x.8rg (ID: KoVjVisw)
第1話『日替わり定食は種類も豊富でとても美味しいの法則』
「では娘よ、また365日後に会おう」
「一生帰ってくんな」
今日で何回目のやりとりだろう。そろそろ疲れてくる。私はこっそりと溜息をつくと、目の前にいるお父様を呆れるように見た。
空港に来てから既に30分以上過ぎている。その間にこのやりとりは数え切れないほどした。
「仕方がないだろう?久しぶりの旅行なんだし、羽を伸ばしたいじゃないか」
「だからといって、1年も帰ってこないつもりですか」
「大丈夫。私の愛おしい娘を1年も放っておく訳ないだろう?きちんと手紙を送るよ」
つまりそれはほとんど野放しにしていることと、同じじゃないだろうか?
ここまでの話を整理すると……。時間も金銭的にもかなり余裕のある私の両親は、365日という超長期的な旅行に行く。そそいて、その際に家に居る使用人さん達も全て連れて行くというもの。それは問題ない。既に私は17歳だし、いつも家のことをやってくれている使用人さん達にも羽を伸ばしてもらいたい。けれど問題は———
「なんで5人も執事が来るんですか!!」
「1人じゃ大変だろう?」
「そんなことありません。第一、私は普通の一人暮らしがしたいんです」
「だから普通の一人暮らしは一家に一人執事だろ?」
「それは普通じゃありません!」
5人も執事が来るということ。しかも日替わりで。「執事協会」なるものから来るらしいけど、詳しいことはまったく聞かされていない。そもそも「執事協会」というのは、執事の育成から派遣までする協会らしい。そしてその創立者は私のお母様——花屋敷桜子だ。ちなみにいうと、私のお母様は腐女子……もとい貴腐人だ。少女趣味からアニメ・マンガ・BLから執事まで、全てにおいて精通している。……そんな母親を持つ私の気持ち、いくらか分かる人がいるだろうか。
「しかも何ですか日替わりって」
「日替わり定食は種類も豊富だし、美味しいだろ?それの法則だ」
「すみません、私一応アメリカの大学を飛び級で卒業しましたが、そんな法則初めて聞きました」
「そうか、姫華は日替わり定食を食べたことがないのか。よし、それじゃあ今度お父様が連れて行ってあげよう」
「話を逸らすのはやめていただきたい!!」
は、話がかみ合わない。……そういえば私の両親は、本当に扱いにくいということを忘れていた。当然一筋縄ではいかない。私は意を決してお父様に詰め寄る。
「ですから、日替わり執事とはいったい何なんですか!」
「その名の通り、1週間日替わりで家に来る執事のことだ」
「そんなに簡単な説明だったら、最初から言ってください!!」
面倒くさい両親に、私は今度こそあからさまに溜息をつく。
「あぁ、そうそう。母さんから手紙だ」
「手紙?」
お父様から受け取った手紙には、既に2日前からアメリカで先に羽を伸ばしているであろう母親の文字が書いてあった。
私の愛おしい娘、姫華へ。
今お母さんはアメリカに来ています。けれどアメリカではア○メイトもゲ○マーズにもいけません。正直言って、寂しいです。母さんは早く萌えを吸収したいです。
話は変わりますが、お父様から執事のことは聞きましたか?お母さんが設立した「執事協会」から、優秀な執事を5人選びました。その人達に日替わりで来てもらうのです。大きいお屋敷で1人ぼっちは寂しいでしょう?だからお母さんとお父さんのせめてものお詫びです。旅行に連れて行ってあげられなくて、ごめんね?アメリカの大学を飛び級で卒業したのに、まだこっちの高校に通いたいなんて姫華が言わなければ、一緒に連れて行ってあげられたのに……。そう言ったからには、勉学や友達との関わり合いに励むのよ?それがお母さんとの約束です。
じゃあ、今から別荘での〜んびり楽しみます。
あなたのお母様より
P.S.
執事さんってけっこうイケメンなのよねぇ。……ふふっ、帰ってきたらどんなことがあったのか、教えてね♪
「…………」
しばらく立ち尽くす。相変わらず脳天気なのが文面からも読み取れる。
「では、お父さんも行くか」
「あ、行ってらっしゃい」
お父様の声に、私は背筋を伸ばす。いくら面倒な親だからでも、やはり1年間会えないと思うと少し……いや、かなり寂しい。けれど私も花屋敷財閥の娘として、こんなところでしんみりしてはいけない。そう思うと、自然と背筋が伸びる。
「お気をつけて」
「ああ、お前も体に気をつけるのだぞ」
正直言うと、日替わり執事について問い詰めたいところだけど……。まぁいいか。
じきに会えるんだし。そしてお父様は搭乗口へと向かった。
後になって思うのだけれど、もう少し執事さん達について聞いておけば良かったと後悔した。